第4話 風呂

 きょうれつかゆみで目を覚ました。


 これは少しキツいな・・・。


 ん? そういえばノミやダニって寄生虫だよね?


 いているハツやアユの頭から小さな虫がねるのが見えた。


 ハツたちは体が自由に動かずかゆいところがかけない状態だ。


 どうにかしてやりたいと思う。


 ダニやノミをはいじょすれば、やつら起点の病気が防げるし、痒みが止まる。


 風呂に入れてあげたい。 


 体を起こしてモエを探すが、姿が見えない。


 海でも行ったか?


 キナを見ると、左手で頭をボリボリやっている。


 かのじょもかゆいらしい。


 ・・・ってかキナの体が動いている。


 頭をいている。


 急いで、キナの所へ行く。



「キナ、聞こえるかキナ」



 目を開けたキナは、ぼけまなこで左右を見た。



「ん、あれ、なんでみんないるの」



 ぼけているのか、あるいは覚えていないのか、まさかおくが無い!?



おれがわかるか?」



 今のキナは、顔がボコボコで表情が読めない。



「どうしたのユウジ」



 俺にしょうてんを合わせて、俺の名を呼んだ。



 記憶が飛んだ可能性はあるが、少なくても俺を覚えている。



 その事実にホッとした。



「ああ、良かった、目が覚めたか。心配したぞ、体に痛いところはないか?」


「痒いけど、痛くはないか・・・」



 キナの顔がこわる。


 表情は読めないが、キナのまとう空気が変わった。


 体がふるえているような気がする。

 

 キナの頭をなるべくやさしくでる。



「昨日のこと覚えてるか?」



 彼女の右手が俺の手をつかもうとして、つかめなかった。


 彼女が自分の右手を見つめている。



「切られたの覚えてないか?」



 キナのひとみいっしゅんうるんだ。


 表情は相変わらず読めないが、ふるえる体から覚えている事を察した。



だいじょうだキナ、奴はもういない」



 彼女の目が俺をとらえる。

 

 なるべく優しく見えるようにほほむ。



「大丈夫だ、もうひどいことはされない」



 キナの目からボロボロと、なみだがこぼれ落ちる。



こわかったな、ゴメンな、すぐに助けてやれなくて」


「怖かった」



 キナの体を起こし、彼女をきしめると、き返してきた。



「大丈夫だ、もう大丈夫だからな」


「うん、ユウジが助けてくれたの?」


「いや、俺は間に合わなかった、多分助けたのは神様だ」


「神様?」



 神様は、俺とミコだけしか知らない話だったと気がついた。


 神様の話をどうしようかとなやんでいると、キナの背中からミコの声がする。


「ユウジだよ、助けたのはユウジ。

 キナの悲鳴が聞こえて、変な男のる声が聞こえて怖かったの」


 キナの体がこわった。


 少し強めに抱きしめる。


「そしたらユウジが走ってくる音が聞こえて、すごい音が聞こえたの。

 それから男の声が聞こえなくなった。

 ユウジの声だけ聞こえてた。

 ずっと必死にキナの名前呼んでたよ。

 キナ、帰ってこい、キナ起きろって、ずっと聞こえてた。

 ・・・ミコも呼んでしかった」


「ミコ?」


「キナがうらやましかった」


「アユも言ってしい」


 アユがの顔がさびしそうだ。


「聞こえてた?」


「全部聞いてたよ」


「あんなにいっぱい、たくさん呼んでもらえるキナが、うらやましかったの」


 コケていて分かりにくいけれど、アユの顔が悲しそうにゆがんでいる。


「いや、お前達も大事だよ? キナじゃなくてもやるよ?」


「ホントに?」


 アユの瞳が俺をしっかりらえている。


 アユの目を見返して、なるべく気持ちが伝わるようにする。


「当たり前だろう、お前達を俺ができる限りなんとかする」


「ユウジここに居てくれる?」


「ああ、心配するな、お前達が出て行けと言うまでここに居る」


「アユたちが怖くない?」


「なんで、こんなにカワイイのに、怖いわけがない」


「アユたち動けないよ」


「お前達が俺を必要としてくれるのなら、それだけで俺は嬉しい」


「もう動けないし、痛いだけだし、死にたかった」


 アユが悲しそうな声で言った。


 何でもかんでも『生きてさえいれば』と、俺は思わない。


 死んでもいいと思っている。


 年若くとも、人生につかれたら死んでもいいよと、思ってはいるのだ。


 しかし、この子達はダメだ、せめて少しでも楽しいことをしてからでないと、俺が認めたくない。


 楽しいことを経験して、つらいこととてんびんにかけて、それでも死にたいのなら死んで良いと思っているけれど、この子達は多分、楽しいことを知らない。


 病気で死ぬのは仕方がないとあきらめられるが、この子達の心が死ぬのはイヤだ。


「そうだね、キナも、死にたかった」


「キナもか?」


「うん、あの時も怖かったけど、死んでもいいやって思った」


「ダメだよ、俺が悲しいからダメだ」


 声が少しなみだごえになった。


 俺の涙声にアユが反応した。


「アユたちが死んだら悲しい? ユウジはまだここに来たばっかりなのに」


「そうだけど、モエに助けられて、ここに来ただけだ。でも、お前らダメだよ、まだ楽しいこと何もやってないだろ、せめて何か楽しいことしないと、あんな・・・死に方じゃ・・・ダメだ」


 言っていたら泣けてきた。


 完全に涙声になっている、かっこ悪い。


 オッサンなにやっている。


 必死に涙を止めようとするがほおを流れ落ちる。


 キナが俺を強くきしめてきた。


「ありがとう、助けてくれて」


「うん、良かった、帰ってきてくれて本当に良かった」


「帰ってくるって?」


「ああ、キナ死にかけた、神様が助けてくれたらしい」


ちがうよ、ユウジ、神様じゃない。ユウジが何もしなかったらキナは死んでた」


「神様と話したのか」


「うん、神様が教えてくれた」


「そっか、あんなのでも役に立ったか」


「ユウジがやってなかったら、神様がなにをやってもダメだったって」


「そうか」


「私死んでたの?」


「俺がキナの所にけつけたときには死んでた」


「ユウジがね、ずっと言ってたよ、くな、帰ってこいって、すっごい必死にさけんでたよ」


 キナが照れたように瞳をらして、俺の胸に顔をめた。


「えっと、死んだとか生き返ったとか、神様とか、よくわからないけど、死んだ人って生き返るの?」


「いや、死んだままだ。キナは死んだばっかりというか、死にかけだったというかな」


「死んだばっかりなら生き返るの?」


「いや、色々条件あるんだよ、キナは運が良かっただけで、つうは生き返らない」


「そうなんだ」


だれか生き返らせて欲しかったのか?」


「ううん、居ない」


「そうか。で、キナ、ホントに体、痛いところないか?」


「うん、大丈夫。痛くない」


「手首は動くか?」


 キナが俺から少しはなれて、右手首を動かそうとするが、ぷらぷらしていて動かない。


「なんか変な感じする、動かないのかな」


「右の手首切られてたからな」


「また動くようになる?」


「正直わからん、神経が切れているとダメかもしれない」


「そう・・・」


「ただな、神様がりょうしたらしいから、もしかしたら動くかもしれないぞ」


「神様が治療したの?」


「治るって言ってるよ」


「ホントか!」


「うん、治る」


「良かったな、治るって」


「うん、それはうれしいけど、よくわからない」


「心配するな、俺もよくわからん」


「むー」


「キナ、お化けみたい」


 アユがモエの顔を見てからかう。


「え、そんなに酷い?」


 キナがあせって自分の顔をさわっていると、モエが帰ってきた。


「あ、みんな目が覚めた?」


「すまんモエ、なんか一人で働かせちゃって」


「大丈夫ですよ、一日くらい、私一人でなんとでもなります」


 真面目な顔して、ふんぬーとこぶしにぎっている姿がとてもわいい。


「ありがとう」


「それよりおなかすいてますよね、昨日ゆうごはん、みんな食べてないですし」


 キナがすかさず反応する。


「おなかすいた!」


「言われたらそうだな、朝食手伝うよ」


 キナのとなりして、朝食の準備を手伝う。


 ぎょかいのさばき方などわからないので、そこはモエ任せ。


 俺はおかゆ作りだ。


 材料に米がなかった。


 穀物だとは思うけれど、色々な種類のつぶを混ぜ合わせたモノだった。


 あわひえきびみたいな感じだろうか。


 たしか栄養価は白米より高かったとは思うが、この雑穀がそうなのかは不明だ。


 モエが細かくつぶした魚介をなべに投入した。


 これと雑穀でかゆを作るらしい。 


 モエに教えてもらいながら準備を終わらせ火にかける。


 米をなべいたことはあるが、かまは初めてだ。


 火もまきなので火力調整が難しい。


 モエにタイミングを教えてもらいながら強火から中火にしたりと目がはなせない。


「なあモエ、大きいおけないかな? 使ってないの」


「新品ですか?」


「いや、余り物でみずれしないならなんでもいい、人間が入れるくらいの」


「人間が入れるくらいですか・・・、何に使うんですか?」


「風呂だよ」


「? 風呂ならありますよ」


「あるの? お湯のやつ」


「えっとお湯のお風呂ですか?」


「モエの言うお風呂って、海女あまで使う体温める湯気のやつだろ?」


 モエといっしょに海女小屋に入ったとき、有ったので覚えている。


「はい、それです」


「まあ、悪くはないけどな、蒸し風呂じゃなくてお湯のお風呂だ」


「そんなのあるんですか?」


「あるんだよ、お湯のお風呂。そのお風呂をやるのに、モエが海女漁で使ってるやつ位の桶が欲しい」


「桶ならいっぱい有りますよ。今私しか使ってないですから、お母さんが使ってた奴とか余ってます」


「一つもらえるか」


「大丈夫ですよ」



 食事ができたので、とんに入ったままのみんなを起こす。


 ハツを起こそうと布団をめくって青ざめた。


 俺がていた場所に、大量の黒いつぶつぶが転がっている。


 つまんで見てみる。


 多分だが、ノミとかダニみたいな寄生虫だ。


 つか、なんで俺が寝ていた場所だけ?


 ・・・もしかして神様のせいなのか?


 神様は世界の神様ではなくて、人間の神様なのだろうか?


 俺の血を飲むと寄生虫は死んでしまうのだろうか・・・


 人間は死なないよね?


 最悪、どうしても神様とつながれない場合の最終手段として、血を飲ませる事も考えていたけれど、コレを見るとやめた方が良いような気もする。


 とりあえず先に食事にしよう。


 俺はキナとミコに、モエは、アユとハツに食べさせる。


「みんなで食べると、しいね」


 アユが今まで見せなかった笑顔が眩しい。


 最初はガリガリで怖いと思っていたけれど、毎日見ていてもう慣れた。


 多分アユが美味しいと感じているのは、幸福を感じているからだ。

 感情で食事のおいしさは変わる。


「そうだな、今日からみんなで食べよう」


「やった」


「ユウジ、本当に美味しい、なにこれ?」


「うーん、キナは昨日治療したから?」


「治療したら美味しいの?」


「わからん、ミコは治療してから、ご飯がしくなったと言ってるな」


「うん、美味しくなってる、おどろいた」




 食後、キナの手と足を固定するための治具を竹で作ってみた。


 布でグルグル巻きにして、手首や足首が動かないように固定する。


「動きにくい」


「いや、動いちゃダメだから、いつまでっても手足が動かなくなるぞ」


 神様のおかげか、キナの体も痛みが全て消えたらしい。


 なぐられた顔も、切られた手足も痛みは無いそうだ。


 きょうおどろきから回復したキナが喜んでいる。


 痛くないせいで動こうとするキナを、動かないように言いつける方が大変だった。


 アユも最初に体をいたころは、動かすだけでも痛がっていたけれど、どれが効いたのかは不明だが、痛みが少しかんしているらしい。


 背中のとこずれが治ってきているし、体を動かす位なら痛みが出ないようになったみたいだ。


 直接触れると傷も治るのか?


 神様のことも、自分の体のこともまだ何も分かっていない。




 みなが落ち着いたところで、昨日の男のことを聞いてみた。


 みな知らない男だというのはわかっている。


 それ以外の情報がないかのかくにんだ。


 その結果得られた情報は、この島には、北から人がよく流れ着くという事。


 まあ、俺も流れ着いた一人だしね。


 それにあの男の言葉とにおいはちがいなくごくにいた奴と同じだった。


 北に地獄があるらしい。


 しかし、この村に流れ着くのはまれなのだそうだ。


 すなはまに奴のこんせきは発見できなかった。


 昨日の男は、この村以外の場所に流れ着いて、そのあと、単独でここまで来た事になる。


 村の入り口で見つけた痕跡からしてちがいないと思う。


 モエが親から厳しく教えられたことは、はまで知らない人を見たら、近寄らず必ず大人を呼ぶ事だった。


 あとは役人にわたすこと。


 なぜ役人に引き渡すのか、理由まではわからなかった。


 まあ、普通に考えれば外国人の無許可での上陸を放っておくとも思えない。


 わからないことはとりあえず横に置いておこう。


 とりあえず知らない奴が来たら、知らせる手段を考えることにした。




 今まで行き当たりばったりすぎた。


 外敵もいるとなると、無計画というわけにもいかない。


 頭の中にやることリストを書き出して、優先順位を決める。


 今日やるべき事は、畑でしょくりょう確保、風呂桶の準備、村のあく、情報収集、神との接続、風呂。


 あ、毒貝を忘れていた。


 昨日高いところに置いてそのままだった。


 死んでないよな?


 急いで桶を下ろしてのぞむ。


 貝は生きていた。


 動いている。


 モエが隣に来て桶の中を覗き込む。


「毒貝ですね、どうしたんですか?」


「昨日の男、あれに、止めしたのコイツ」


「村の中に居たんですか?」


 ものすごく驚いた顔でこちらを見る。


「いや、キナの悲鳴聞く前に、コイツが俺を射しやがったんで、確保した」


されたんですか? 大丈夫ですか、死んじゃイヤですよ」


 泣きそうな顔でうでつかまれた。


 もの凄く心配されている。


 すると後ろからミコの声が聞こえてきた。


「大丈夫、神様が貝の毒が欲しいって言ってる」


「ん? ミコその辺詳くわしく」


「あのね、治療するのに必要なんだって」


「毒ですよ?」


「ああ、モエ、毒ってのは物によっては薬にもなる。問題は量だ、少量なら薬だったり、大量なら毒になったりな」


「神様もそう言ってる、ミコ達の治療に使うって」


「射されればいいのか?」


「うん、そしたら神様がそれで薬を作るって」


「ユウジさんは大丈夫なのでしょうか?」


「ユウジはね神様が守るから大丈夫だよ」


「そうですか・・・安心しました」


 モエが本気であんしている。


 まあ、この毒貝のおそろしさを知っているのがモエだけだからな。


「あの、この子の毒、武器に使えませんか?」


「使えるかもだけど、危険じゃないか? チビ達とか」


「そうですね、でもこれから治療でこの子、必要なんですよね」


「そうなるな」


「この子見つけるの大変なんです、海女小屋で飼いましょう」


えさとか分かるのか?」


「はい、漁にこの子の毒を使うこともあるので」


 一度毒貝に射された後、貝を持ってモエと一緒に海岸へ。


 そこで桶の砂と海水をえて餌を投入。


 海女小屋に置いておくと、毎日二回モエが世話をする事になる。


 この場所にはモエしか来ない。


 まあ、他はまだ歩けもしないけれど。


 せっかく海女小屋に来たので、風呂桶候補の桶を見せてもらう。


 モエが海にかべていた桶より少し大きい。


「母が使っていたものです」


 大きさも、がんじょうさも問題ないようだ。


 風呂に使うには匂いが気になる。


 まあ、そこはあとで考えよう。


 桶をもらって、モエと別れる。




 とりあえず桶はたきへ持っていく。


 匂い取りは、後で考えるとして、まずは畑だ。


 取ってくる作物はキナに聞いた。


 雑草取りをして、食べる分だけしゅうかくだ。


 それにしても虫食いが酷い。


 しゅうかくはすぐに終わった。

 

 本当は、畑の虫のじょや、畑の周りをおおくす雑草をどうにかしたい。


 しかし、今はそんなことを言っているひまはない。



 さっそく、滝へ行き桶を洗う。


 ただ水洗いしただけだと、いそくさい、つうかなまぐさい?


 あまり良い気分ではない。


 熱湯消毒でもしておくか・・・


 モエの家でお湯をかす。


 ついでに、布団も洗うか。


 前にミコ達のベッド用布団は洗ったけれど、今隔かく所で使っている布団は干しただけで洗っていなかった。


 この桶サイズなら布団も洗える。


 熱湯だと痛むかもしれないので、ぬるま湯で洗ってみるか。


 ならついでなので、みんなの服も洗おう。


 隔離所にもどり、布団を回収し、一度洗ったうすいベッド用の布団をいて皆をかせる。


 その後ミコ、アユ、ハツ、キナの服を変なテンションでっていると、ミコがえらく喜んでくれた。


 楽しかったらしい。


 モエがえを用意してくれたので、あとをモエに任せて滝へもどる。


 まずは風呂桶に熱湯を入れる。


 後は熱湯をかき回し、お湯が桶のふちまでかかるようにする。


 しばらく待ってから、お湯が冷めてきた頃に匂いを確認。


 暖まったせいか匂いがきつくなった気がする・・・。


 ダメなのか?


 熱湯で、きんめつすれば匂いが消えると考えたのだが・・・。


 お湯の匂いをぐ。


 このまま洗うと布団もなまぐさくなりそうだ。


 さてどうする。


 悩んでいるとモエがやってきた。


 モエに相談すると、村の倉庫から何やら持ってくる。


 酒や、塩、その他知らない物がチラホラ。


 匂い消しはモエに任せて、洗い物を先に滝で洗う。


 よごれが酷いので、先に洗っておかないと、桶の水を何度も変える羽目になる。


 布団を滝壺に入れると、汚れの筋が海に向かって流れていく。


 汚れがある程度取れた頃、モエの作業も終わったようだ。


 桶の匂いを確認する。


 多少生臭いが、気になるほどでもなくなった。


 さすがモエ。


 その後モエと一緒にせんたくものを洗いまくった。


 ぬるま湯につけると、お湯がすぐににごり出す。


 まあ汚れが落ちているのがわかるので楽しくはある。


 布団と服を洗い終わって、竹で作った物干し竿ざおに干していく。


 二人でやると、はやり早い。


 モエも楽しそうだ。


 しかし、竹は本当に便利だ。


 三本束ねて縛れば、足になるし、枝を落とすだけで竿になる。


 加工も簡単だしね。


 

 

 風呂桶が完成し、せんたくも終わったので、モエと別れて村を一周することにした。


 しんにゅうしゃ対策といっても、村のことを知らなければ意味がない。


 ここに流れ着いてから、モエの家と隔離所、あとは海だけしか行ったことがない。


 なので、とりあえず自分の目で村を確認しておく。


 雑草だらけだし、雑草の高さが胸くらいまであるので歩きにくい。


 たまにさきが顔の高さの物もあり、歩くだけで不快だ。


 モエに確認したこところ、毒貝のような毒の強い生き物は陸にはいないそうなので、そこだけは安心しているけれど、されると手足ががり、しばらく動けなくなる毒をもっている生き物はいるらしい。


 ただ、俺の今の体は、毒を受けても神様が多分なんとかしてくれる。


 どの程度までの毒なら大丈夫なのか知りたいところではあるけれど、神様との会話にはミコが間に入るのだ。


 教育を受けていないミコに通訳は難しい。


 ミコにわかる、かみくだいた、あいまいな答えは得られるが、明確な答えを得るとなるとかなりの問答が必要となる。


 一度試して、ミコがものすごく悲しそうな顔になったので止めた。

 今は、神様に俺が主導権を渡せれば、彼女達の治療が可能だという事がわかっている。

 それだけで十分じゅうぶんだ。


 なので、どの程度の毒まで耐えられるかは、おのれの体でじっせんするしか方法がないけれど、積極的にためすつもりもない。


 毒貝の毒を受けたのは、あくまでもぐうぜんである。


 死ぬかも知れない毒を、保証も無しに受けるつもりはない。


 まあ、それはともかく、この雑草をどうにかしないと、視界が悪すぎる。


 しかし、人手が足りない。


 モエは、食糧確保と食事の用意、皆の世話。


 俺は皆の痛み止めと、畑仕事。あとは神様と接続を優先する必要がある。


 次の優先事こうとして雑草の処理を頭のメモ帳にさいしていたら、あしもとが無くなって1メートルほど下にすべちた。


 打った足やしりが痛んだが、すぐに痛みは消える。


 これも神様が何かやっているのだろう。


 俺が落ちたのは用水路らしい。


 はば2メートル、深さ1.5メートル程度の水路が村の真ん中を流れている。


 モエの家から隔離所に行く際にある用水路で間違いない。


 雑草のせいで、流れが悪くなっている。


 ぬかるんでいるので、せっかくモエが作ってくれたぞうどろだらけになってしまった。


 このぬかるみもどうにかしないとな。


 大雨が降った際のはいすいの心配もあるし、害虫の発生源にもなりかねない。


 水路を上っていくと、雑草に覆いくされたいしがきが有った。


 たぶん石垣の上は段々畑だろう。


 水路から出て、水路の横にある雑草におおわれた道を上っていく。


 水路のりょうわきにはたぶん水田。


 こちらも雑草が多すぎてよくわからない。


 だが、畑の草はほぼ一種類だけで、綺麗な黄色の花を咲かせていた。


 菜の花みたいだ。


 坂を登り切ったところには小屋も建っていた。


 中には農具が納められている。


 まあ、中もツタだらけなので、使うとなると手入れが必要だろう。


 さらに上ると川があった。


 モエの家の近くにある滝とつながっているのだろう。


 用水路の取水口には、大きな石がはまりんで、水の流れをさえぎっている。


 大雨でも降って、転がってきた石がまったようだ。


 一人で動かせるような石ではないので、これも後回しだな。


 上からながめると、村の様子が一望できた。


 雑草が多すぎてよくはわからないけれど、村の真ん中を水路が流れている。


 俺から見て右側、つまりはモエの家側に民家が集中している。


 川と水路にはさまれる形に民家が集中しているのは、生活の利便性を高めるためだろう。


 俺から見て左側、水路をはさんで隔離所側は大きな家が多い。


 何か意味があるのか聞いてみる必要があるな。


 その他、となりむらに通じている道がある。


 キナをおそった男のしんにゅうルートでもある。


 その隣にそう


 その先は森と山。


 村の家々の先にはかなり広い草むらがあり、防風林、砂浜、海と続いている。


 海は構造。


 いわゆるわんである。

 

 かんで見たおかげで、村の配置が理解できた。


 この村は整地されているようで、家が建っている土地は全て平らにならされている。


 けいしゃちゅうなどに家は建っていない。


 すべて平らな土地にのみ家が建てられている。


 さて、防衛をどうするか・・・。


 村の出入り口に門は無い。


 海側は、ぼうふうりんを簡単にけられる。


 モエの家が一番防衛に向いている。


 身長より高いがいへきがあるし、建物も立派だ。


 モエと一度話し合おう。


 現時点では、隔離所のまりてっていと、モエとのれんらく手段を考えよう。


 あとは早めに雑草処理かな。雑草の背が高すぎて、ひそまれると見つけるのが困難だ。


 しかし、この広さの村全ての雑草を処理するとなると、今の村人全員がまともに動けたとしても何日かかるか想像もつかない。




 隔離所に戻るとモエがいた。


 モエに、夜は戸締まりをするように言いつける。


 なんでも、今まで一度も戸締まりをしたことがないそうだ。


 どうも、ここは一昔前の日本みたいなところらしい。


 みやすくていいけれど、皆の安全優先。


 先日のこともあるので、モエも理解してくれた。


 出入り口は引き戸で、横にスライドするタイプだ。


 つっかえ棒で戸が動かないようにする。




 モエとの連絡手段をどうしようか話し合った。


 漁師は指笛で連絡を取り合うそうだ。


 モエも指笛が使えた。


 俺も教えてもらったが、まったく音が出なかった。


 早いうちに、竹細工で笛を作ろう。


 モエが海で知らない船や人を見かけたら指笛を鳴らしてもらう事になった。




 あとは疑問に思ったことを聞いてみる。


 この中で一番の物知りがモエである。


 しかし、そのモエも、こんなじょうきょうで育ったせいか知らないことも多い。


 それもで、全く何もわからない俺よりマシなのだ。


 村の真ん中に水路が通っていて、滝側は民家だというのは見てわかった。


 村の入り口側であり、隔離所の建っているここは、いわゆる倉庫街なのだそうだ。


 元々、この隔離所も倉庫の一つだったらしい。


 そう言われて納得した。


 隔離所の作りは特殊なので、どうやって改造したのだろうとは思っていたのだ。


 建物の中の2/3は土間になっていて、1/3は畳部屋が三部屋。


 まあ襖が全て外されているので、大きな部屋が一つあるようにしか見えないけれど。


 隔離所の隣に民家があるのは、この隔離所で病人を世話する人達用に立てられたのだそうだ。


 確かに、隣の家だけ小さい。


 大きな建物である倉庫の種類は、ねんを納める一番立派な年貢倉庫。


 その隣には、村の食糧を収める食糧倉庫がある。


 隔離所の食糧はこの倉庫から持ち出されているようだ。


 油に、酒やつけもの、調味料の類もこの倉庫内に納められているらしい。


 次に大きな倉庫は農具倉庫。


 村全体で使うが、使用頻ひんが低かったり、大型の物が納められているらしい。


 漁に使う道具を収めた倉庫もあるそうだ。


 あとは村の持ち物を収める倉庫。


 それに村長の家は倉庫街に建っていた。




 今日一日で、かなり村のことがわかってきた。


 俺が欲しかった工作道具なども、村の倉庫を探すと出てきたけれど、武器は見つからなかった。


 武器に転用可能な農具や漁具はあるけれどね。


 一番凶きょうあくそうなのが、両手持ちのかまだった。


 死神の絵に出てくる、あの凶悪そうな鎌である。


 モエに使い方を教えてもらう。


 なるほど、これがあれば雑草処理が少し早くなりそうだ。


 村をある程度把握するだけでかなり時間を使ってしまった。


 治療も進めないとね。

 



 隔離所でモエと二人でお湯を沸かす。


 かまどには四つのおおがまが並び、モエにもらった大きな風呂桶に井戸からんだ水が風呂桶に1/3ほどめられている。


 いたお湯を少しずつ風呂桶に入れていき、体温より少し高くなったくらいでミコを入れる。


 手足がまともに動かないので、俺が支えている。


 ミコの顔がおもしろい。


 不安そうな顔から、驚いた顔になって、今はフニャけている。



「ミコ、どうだ? 気持ちいいか?」


「ユウジすごい」


「そうだろう、そうだろう、体洗うから大人しくしてろよ」


「わかった」



 ミコの体をすみずみまで洗う。


 なんか手の平でなでているだけなんだが、こう、ねちょっとしたものがズルッと取れる感じがする。


 足首より下の部分が特にすごくて、足の裏なんかもう1センチはありそうな層がズルッとズレて取れた。


 少し引いてしまうくらい汚れが取れる。


 最後に頭をお湯にける。


 口や鼻がお湯にからないように気をつけながら、頭を支えつつ頭を洗う。


 指先の異物感がすごい。


 こうネチャッとしていてブツブツがあるというか、ねこやら犬をでているときにノミやらダニを見つけた時のかんしょくである。


 つまりはかみの中に、いっぱい居るのだろう。


 頭をお湯につけたまま、指先のかんがなくなるまで、頭を洗う。


 お湯の中では息ができないのか、ノミが風呂桶の底にまっていく。


 が酷いかと思ったが、ミコのかみはしっかりしている。


 つか、お湯がスゲー色になっている。


 桶の底をぬぐってみると、ヘドロみたいなのが沈殿していた。


 最後に頭や体全体をなで回し、指先に異常がないか確かめてみたが大丈夫なようである。


 いっちょ上がり。


 次! とか思ってみたが・・・、お湯真っ黒。


 お湯の残量と、お風呂に入れる人数を考える。


 全員お湯をえると足りなくなる。


 一度チビ達を洗い終わった後、お湯を入れ替えてすすぎしながら暖まる。


 よし、それにしよう。


 お湯を足しながら、次々に洗う。


 ハツやアユは治療をしていないので、体温とほぼ同じ温度のお湯にする。


 ハツは首がわっていない?


 ってか目がおかしい。


 最初に見た時よりひどくなってるか?


 右目と左目が違うところを見ている。


 手首や指も変な向きで固まっている。


 病気が進行しているのか?



「なあ、ハツの目ってこんなに寄ってたっけ?」


「いえ、ここまで酷くはなかったですね」


「手首の曲がりは」


「なんか変になってますね」



 あー、うー言っている声はイヤそうには聞こえない。


 体を洗うが、ミコとはざわりが違うし、汚れはミコの方がすごかった。


 ミコもたいがいひどかったが、ハツのはだはできものだろうか、ブツブツがあって、手触りが非常に悪い。


 頭を洗うと髪がける。


 ゆっくりお湯にけながら洗う。


 神様の治療をやったミコの肌の方がれいで、汚れがいっぱい出たということは、しんちんたいしゃさかんに行われていると言うことだろうか?


 まあいい、次はアユだ。



 チビ3人洗い終わったところで、お湯を捨て、新たに水を張り、お湯を入れて丁度良い温度にする。


 モエに手伝ってもらってアユ、ハツ、ミコを同時に入れる。


 三人座すわって入らせると丁度良い。


 少しずつお湯を足しながらゆっくりお湯にけておく。



「どうだ、気持ちいいか?」


「これ好き」


「そうか、お風呂って言うんだぞ」


「お風呂すき」


「これからもタマにやるからな」


「やた、ユウジ来てから楽しいこと一杯」


 ミコには好評だが、アユはイヤそうだ。


「アユはきらいか?」


「ドキドキして苦しいからイヤ」


 脈を確認してみると、確かに少し早い。


 病人を風呂に入れたらダメのようだ。


 3人を風呂から出して、モエとキナが風呂に入っている間に、布団をんでくる。


 だっすいで布団をまわし干していただけあって、だいぶかわいているが、まだ湿っている。


 布団を敷いて、たけづつにお湯を入れてふたをして、布団の中にほうんでいく。


 熱で多少はかわくだろう。


 竹から蒸発する水分で逆に湿るかな?


 まあ、る前に温かかったらそこまで気にならないだろう。



 お風呂が終わり、片付けを終わらせて飯の準備だ。


 みんなでご飯を食べると、ミコがじょうげんだ。


 体がポカポカで、気持ちいいらしい。


 頭や体もかゆくなくて、スッキリしているそうだ。


 まあ、あの洗った後のお湯を見ればそらそうだろう。


 そしてみんなで寝る。


 まだ布団は湿気ってはいたが、お湯入りの竹筒を入れていたせいで、熱いくらいにホッカホカだ。


 少し冷まして布団に入る。


 昼間の気温は多分20度前後だが、日が落ちると一気に気温が落ちてくる。


 今は多分15度を切っている。


 朝方はたまに10度以下の時があると思う。


 ホカホカの布団が気持ちいい。


 俺はハツを抱いて寝る。



「ハツ」



 ハツは俺を見るが、やはり目がおかしい。


 早めに治療をした方が良いかもしれない。


 改めてハツを抱きしめて、ハツの頭に鼻を当てる。


 うん、昨日とちがって変な匂いはしない。


 髪もねっちょりしていない。


 うむ、風呂に入れて良かった。


「ユウジ、痛い」


 アユが痛みをうったえる。


「大丈夫か、お腹に手を置くか?」

「うん」


 せっかく洗ったし、どうせなら実験しよう。


 アユとハツの服をがして、俺もぐ。


 ってか、下着欲しいな。


 まあ、ない物はしかたがない。


 それに、相手に欲情することもない。


 右手にアユを、左手にハツを抱いてみる。


 位置を調整して、二人を俺の両脇に入れる。


 まあ、分かっていたけれど、抱きごこが非常に悪い。


 つか、骨がさって痛い。


「アユ、痛くないか?」

「ん、痛いのが遠くに行った」


 こんなもので痛みが少しでも引いてくれるのなら、安いものだ。


 早くこの子達を治療しないと。


 二人を両脇に抱いたままめいそうしてみたが、いつのまにかねむってしまった。

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