第2話 迷い
次の日、
水の
前に飛ばす訳ではなく上に飛ばす。
いわゆる手動のお
なんでこんな物を作っているのかと言えば、
厠は俺の子供時代にあった、どっぽん式と同じだったけれど、紙がないのだ。
ようするに、お尻を拭くのは竹串か縄ということだ。
さすがに、
今の自分に簡単に作れる、紙が不要なお尻洗いを考えて、昔、竹で作った水鉄砲を思い出したのだ。
お尻を洗って、
コレは使い回す。
ちゃんと
村の用水路は
滝の水はそのまま海に流れ出ている。
モエが海産物を
そこは少し海産物に
地球上にも川の中で
そもそも海の生物は、海で直接排泄しているのだ。
それにミコから出てきた大量の寄生虫。
アレを見た後、尻拭き
とりあえずは一度、
自分用とモエ、キナ用で三つ垂直方向仕様、ミコ
一度使ってみないと分からないので、尻を出し水をお尻に当ててみる。
ふむ、
それに水を出すため、ピストンを
これにも慣れが必要だな・・・。
動作確認として、他のお尻洗いも
個人専用品を作って正解だった。
穴開けの関係で違うのを使うたびに
個人用ならそのうち一発で当てられるようになるだろう。
「何をしているんですか?」
尻を
「え、あ、
「治療ですか?」
「そうだ」
まあ、こんな草むらでテストをやっていた俺にも問題はあるけれど。
さすがに尻を出したままでは、俺が
尻が濡れたままで気持ち悪いが、
「昨日、ミコの尻から出たヤツ覚えているか」
モエの顔から一気に血の気が引くのが分かる。
「アレの予防だよ」
「予防ですか」
「そそ、アレな、縄とか
「えっ!」
「だからな、尻はコレで洗う、なれるまで少しかかるが、コレで尻を洗って、この布で濡れた尻を拭く」
さすがにミコの
一度試してみろというと、躊躇無く尻を
少し
看護してばかりで、
「ひゃ、冷たいです」
「当たるようになったか」
「はい、
「大きい方だけじゃなくて小の方にも使えるからな、ってか使った方が良い」
「分かりました」
「終わったら、こっちの布で水拭いて」
「予防というのも大変なのですね」
モエと分かれて
ちょうど良いのでキナに水鉄砲を
頭にハテナマークが
モエと同じように説明した。
尻から出た虫の話になった
ってか、モエだけかと思っていたがキナも躊躇無く尻出したな・・・。
ミコ達、
よほどアレがトラウマになっているようで助かっている。
なんでこんな物とか思われて、使ってくれない方が困る。
まあ、実際の所は縄とか串とか使いたくない俺のわがままなのだが、俺の説明も
衛生観念は持ってもらいたいしね。
キナが畑へ出かけたので、俺はミコに話を聞くことにする。
昔、新興宗教の執拗な勧誘を受けた俺にとって、神と言う言葉は胡散臭いモノとしてインプットされている。
なんとも言えない羞恥心が俺を襲うので、他人に神様という単語を使って話しているところを聞かれたくないのだ。
アユとハツは
体は痛々しく、骨と皮だけではあるけれど、表情が違うだけで印象が全然違う。
アユとハツの胸の上に手を置いみると、やはり表情が少し柔らかくなる。
ミコを起こして、アユとハツの胸の上に手を置いて話を聞く。
昨日、ミコに治療方法は聞いたが、もう少し
ミコの時のように、自動で俺の体が動いて治療してくれるのかと思ったが、アユで試してみても、体は動かないし、光らなかったのだ。
「ミコ、治療の話を神様に聞いてくれ」
「ん」
「アユで試したけどダメだった、どうすれば良い」
「神様と
「そうか、繋がるのか。
「
「繋がらなかったな」
そもそもミコの言う『助けた』時に、俺自身の意識は半分飛んでいたし、体の感覚も
「ミコ質問、治療の時に痛くなかったか?」
「幸せだったよ」
「幸せなのか」
「ん、神様が入ってきた」
「? 神様が入ってきたのか」
「幸せで気持ちよかった、もう一度やりたい」
「そ、そうなのか?」
「できる?」
「その方法が知りたいんだが」
「わかったらもう一度できる?」
ミコが動かない体を前のめりにして聞いてくる。
顔も
少し引いた。
「・・・わ、わかったら考える」
「ん、
ミコの
ミコにしかわからない話だが、つたないミコの話を総合して、俺なりの
・神様に、俺の体の主導権を渡す必要がある。
・ミコの時は、神様が力を全力で使ったらしい。
・
以上であった。
正直、訳が分からない。
普段だったら笑い飛ばすところだ。
ただ、命の火が消えそうな子たちばかり目の前にいる。
俺の知識だけで
彼女たちを救うためには、神様に
神様に主導権を渡すとはどうやればいいのだ?
イタコみたいな感じか?
トランスすればいいのか?
裸で
何かを
俺は酒が飲めない。
弱いとかそんな話ではなく、俺の体はアルコールを分解できない。
これは生まれつき、遺伝の話で、飲めば強くなるとかいう話ではない。
普通なら酒を飲んでハイになる事も考えられるが、俺の場合、酒を飲んだ瞬間体調を
だから、酒は使えない。
うーん、神様だから
あっ、神様が下りると言えば、『こっくりさん』があるな。
しかも、質問に答えてくれる。
なんだかものすごく名案な気がしてきた。
とりあえず実行してみよう。
『こっくりさん』を
土間の土に文字を書いて石を置いて試してみたが、石は動かなかった。
やはり、摩擦が大きすぎるのだろうか?
それとも、石ではなく、食べ物とか価値がある物を使わないといけないのだろうか?
ってか、ミコと話せて俺と話せないってどういうこと?
少しハードル高すぎませんか?
脳内で神様に
なんとかしたいという思いだけが、先行しすぎている。
落ち着いて考えろ。
今からやろうとしていることは、俺が
新興宗教の教祖様とまるで同じ行為なのだ。
昔、それで
俺は今から神様にお願いしようというのに、その神様を胡散臭いと思っているのだ。
まずは俺の意識改革が先か?
少なくても、神様はミコで
命が助かるのかどうかは不明だけれど、少なくてもミコの体の痛みは消えている。
死んでしまうのであれ、ミコのように痛みが消えてくれるのならやる意味はある。
苦しい時間は、長いものだ。
それに彼女達くらいの
痛いのを
過ぎ去る時間と、感じる時間の長さにはかなりの
そんな長い間苦しむだけなら、それを死ぬまで楽にしてあげられるのなら、やる価値はある。
たとえ死のうともだ。
とりあえず、体に神様を下ろすイメージで
しかし、目を閉じて集中しようとすると、小虫が顔の周りを飛び回り、
先に
掃除をしようと決断したときに、モエが俺の
俺の足のサイズに合わせた、モエの手作りだ。
手作りものを、女の子からもらうのは非常に久しぶりで
しかも6足も作ってくれていた。
濡れたりした場合の
2種類あり、一つはただの草履。
もう一つは
「すいません、その、あまり
「いや、俺のために作ってくれただけで
モエも手伝ってくれると言うが、彼女も病人だ。
体の不調も、痛みも
ここの掃除は、
不調の体に、
なので、気持ちだけ受け取って一人でやる。
最初にチビたちのベッドを外に運び、
隔離所の
隔離所の中の物を全て外に運び出す。
ホウキを使って、
その後、はしごを持ってきて、
雑巾が
そもそも家の中で
天井からホコリが
こちらは少し
かまどの中を全て掃除。
きれいな灰だけ残し、後は全て肥料としてキナに渡した。
小物は全て滝で洗う。
まずはミコたちを丸洗いしたいが、病人を水に
モエに
ミコは全然痛がらなかったが、アユとハツは痛そうだった。
拭き終わったミコたちを、掃除の終わった隔離所の床に運び、ベッドを念入りに掃除した。
ミコたちが使っていた布団をぬるま湯に
見る間にお湯が真っ黒になり、桶の底にはザラザラしたものが
らちがあきそうに無かったので、
その後改めて、お湯で洗う。
先ほどと
桶の底にも少し何かが
布団を軽く
今日の天気と風、それにこの布団の
ミコたちをベッドに
丸一日かかっても、全ての掃除は無理だったが、主要部分は終わった。
これで俺がやりたかったこと、俺にできることは全て終わった。
悪臭や、
あとは俺の集中力だけだ。
・・・
うまくいかなかった。
集中できていない。
コレであっているのか? この方法で大丈夫か? などと考えてしまい、神様に祈りを
それに、一番集中できていない理由は、俺が神様を信じられないのが問題だ。
胡散臭いという思いが強すぎる。
気晴らしに、ハツとアユのお
まあ、俺の知っている寄生虫と、こちらの寄生虫が同じものだとは思っていない。
ミコから出てきた寄生虫の形に見覚えがないのだ。
だが、生態は似ているはずなのだ。
魚も貝も、俺が知っているのとは形が違う。
ノミもダニも、形が見える寄生虫は形が違う。
しかし、モエ達は人間にしか見えないし、植物も動物も多少の
生態が全く違うわけでは無く、似ているとは思うのだ。
それに、寄生虫だけの話では無い。
手洗い、うがい、清潔に保つ事。
病気予防の基本だ。
生食の禁止や、飲料水を
モエが生食禁止の話をすると、
海産物は生食が美味しいモノが沢山あるからね・・・。
しかし、病気の原因が不明な以上、できる限りのことはやりたい。
日が
正座、あぐら、手を
皆が寝静まった深夜。
恥を忍んで、火鉢に火をたきながら裸で踊ってみたけれど、なにも起こらなかった。
しかも、目を開けていたモエと目が合ってしまった・・・。
逃げ出したい・・・。
しかし、何がいけないのだろうか?
火の勢いが小さすぎるのか、それとも・・・、と自分以外の原因を探して、そちらに責任転換しようとしている俺がいる。
だが、一番の原因は俺だ。
信じられないのだ。
奇跡を見せられたというのに、俺は神様を信じていない。
神と繋がるために麻薬が利用されるのは、こんな雑念を無くすためか?
お経などは、もしかしたらトランスしやすくするためなのか?
ミコに話を聞いても、先日と同じ内容しか帰ってこない。
という事は、神様をまだ胡散臭いと思っている俺の問題なのだ。
神様を信じられないまま、
ただ、色々な事が少しずつわかってきた。
この子達の生活は、日の出、日の入りで完結している。
俺が来てから、日が落ちてからも起きていることが多いらしいが、普段は暗くなると
これは、
ロウソクを作る人がいなくなり、今は油の灯りのみ。
その油も残り少ないようで、
隔離所の夜の灯りは、夕食を作る際に使った
電灯の明かりで暮らしてきた俺にはかなり不便だ。
せめて油の灯りを。とも思うけれど、油の作り方をモエ達は知らないので、今ある分を使い切ったら油の灯りも使えなくなる。
ただ、竈の灯りだけでも慣れてくればそれなりに見える。
文字を書いたり読んだりと言う事も無いからね。
人の
モエが朝早く起きていると思っていたけれど、就寝時間が早いので、モエの
他の子達がお
痛みで目を覚まし、
夜も昼も関係無く。
チビ達の事も少しだけわかってきた。
ハツはしゃべれない。
目もよく見えていないし、耳もあまり聞こえていないみたいだ。
アユの話では、昔は普通の娘だったようだ。
病気になってこうなったらしい。
病気で、たまにこんな感じになるのだそうだ。
原因は不明だ。
アユの
チビ達の中では、病気の進行が
グズグズしている
キナは立つのがようやくの状態だ。
気力だけで仕事をしている感じだ。
ただ、キナを裸に剥いて
あまりベタベタすると
それに、ここの娘達は人に
確かに、昔保護していた娘の半数は、スキンシップを求めていた。
イヤラシい意味ではなく、人の
残り半分は、
ここの娘達も、最初は恐れていたようだが、俺が何も気にせず
モエも日に日に、体の不調が表に出始めているそうだ。
モエはお腹を少し
あとは、痛みの酷いキナやアユ、ハツを優先してくれと言う。
そして、ミコ。
ミコだけが元気だ。
体が動かないのが
まあ、元気だと言ってもこの体だ。
一日の大半は寝て過ごしている。
アユやハツ、キナに比べて十分に睡眠がとれているし、食事量がかなり増えている。
今ではモエと同じくらいの食事量だ。
まあ、
固形物はまだ食べさせていない。
便の様子を見て決める予定だ。
俺の体には何も不調は起きていない。
水仕事をしているときに何度か
ただ、キナの話だと、病気の始まりらしい。
前に
まあ、何にせよ、とりあえずはみんなをミコと同じ状態にしたい。
神様を体に下ろす・・・
違うか、すでに神様は俺の中にいる。
主導権を神様に
神様をまだ信じられていない。
神様は俺にミコで奇跡を見せているし、痛みを
だというのに、どうしても胡散臭いという思いが
現在の俺はただのヒモだ。
モエが海産物を、キナが野菜類を。
俺は成果も上げられず、ただ飯を
ヒモに
ただ、俺の
・・・ヒモと呼ばれる人って大体ろくでもない状況だから、今の俺で合ってはいるな。
餓鬼だらけで、餓鬼に働かせて、だだ飯を
本来であれば、キナに変わって俺が畑に出るべきなのだ。
なのに、できていない。
放っておけば、そのうちみんな死ぬ。
しかし、モエとキナは俺が痛みを軽減してくれるだけで十分だという。
想像しかできないが、痛みで身動きが取れないときの痛み止めなら経験がある。
痛み止めが俺であるのなら、モエやキナの言動も
3日根を
俺はなにを信じれば良いのか・・・。
日本では、神社に
一度、
それに初日に確認しようと思って、そのまま放っておいた問題を片付けよう。
まあ分かったところでどうしようも無いけれど、心に一区切りはつくだろう。
俺がこちらに来てからというもの、隔離所に
外に出ようとしたところで、モエが声をかけてきた。
「こんな時間にどちらへ行かれるのですか?」
「星が見たくてな」
「星ですか? なら
「おお、それはいいな、行ってくる」
「私もいきます、暗いので場所が分からないでしょうから」
「ああ、そうだな、
モエと二人で砂浜に着いた。
理由は簡単。星明かりだ。
歩いている間にも見えていたが、砂浜について、水平線から立ち上る星の海を見た瞬間、息をのんだ。
目が悪いせいでボケてはいるが、見たこともない星の量だ。
今の日本だと、街灯りが強すぎて、星があまり見えない。
しかし、ここは灯りがないせいか、満天の星である。
砂浜に
地球では無いと。
星の多さから特定の星座を見つけるのは難しいだろうとは思っていたけれど、明らかに星の多さが違う。
地球が銀河中心方面へ移動したらこんな風景かもしれない。
ボケた視界でもはっきりわかる星の
日本でも、分かってみれば木星は肉眼で判別がつく。
なぜって、粒が大きいからだ。
意識しないと分からないレベルだが、大きい。
目の前には明らかにその木星より粒の大きな星が6個は見つけられる。
シリウスクラスの明るい星はゴロゴロしている。
それに星明かりだけで、風景すら確認できる。
星が多すぎて、全天に雲がかかったように見える。
天の川が全天に広がっている感じだ。
あまりの美しさに思わず見入ってしまう。
そういえば月が出ていないな。
となりにモエがいることを思い出して、話しかける。
「モエ、月ってあるのか?」
「月って何ですか?」
「ん? 空に大きな星が出ないのか?」
「どれくらい大きいのですか?」
「そうだな、空に向かって親指を立ててみて」
「こうですか?」
「おう、親指の先くらいの大きさの星だな」
「そんな大きな星は見たことがありません」
「そうか、なら、海って潮の満ち引きとかあるのか?」
「ありますよ」
「衛星がないのに、満ち引きはあるのか・・・。太陽だけの影響なのかねえ」
「何の話ですか?」
「いや、潮の満ち引きって星の影響なんだわ、星が回ったり、近くにある重い星が引っ張ったり」
「海を星が引っ張るのですか?」
「そう、星が引っ張る」
「ユウジさんは不思議なことを知っていますね」
「星が好きだからな」
「あ、流れ星です」
「おお、ホントだ」
「
「流れ星にお願い事するとかないのか?」
「星に願いですか?」
「俺の国では、流れ星が消える前に3回願い事を言えれば、願いが
「そんな話があるのですね。お願いするのは神様だけですから」
「お、神様いるのか、どんな神様だ」
「人間を作った神様と、私たちを見守る神様ですね」
「創造神と見守る神か、それ以外はいないのか」
「
「そうか、教会とか、神社とかないのか」
「内地にあるって聞いてます」
「内地か、行ったことはないよな」
「ないですね、私の村に行ったことある人はいなかったですし」
「そうか、一度行ってみたいねえ」
二人して、とりとめのない話をしながら星空を
ここが地球では無い事がハッキリしただけ
しかし、ホントに
俺は日本語しか話せない。
そして、とある
この地に来てから、最初に目覚めた場所のことだ。
その場所は、本当に、
あの場所は
しかし、なんで? 最初の地獄では言葉が通じなかった?
この島では通じるってことは、やはりこの島に来させたかったのか?
神様は何も答えない。
とりあえず頭の中を整理しよう。
ここは地球ではない。
この村は病に
俺のやりたいこと。
この娘達を
そのためにどう行動すれば良いのか、まだ見えない。
隣を見るとモエが眠っていた。
ずいぶん
風がかなり冷たい、このままだとモエが
モエを家まで運ぼうと、持ち上げて泣きたくなった。
なんだこの軽さ、こんな体で俺を浜から家まで運んだのか。
お
軽すぎるモエを家まで運ぶ間、
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