変わり者たちの出会い方(12)

 人通りの少ない路地に立てられたボロアパート。このアパートにだって人が住んでいるのかいないのか、定かではない。


 こんなにも閑散とした所にたった一人で取り残される。携帯も手元には無いし、家族と連絡を取ることさえもできない。状況は文字通り、絶望的だった。


「どうすれば……俺はどうすればいいんだ‼」

「ちょっと、人んちの前であまり騒がないでくれない?」

「どわっはァッ⁉」


 突然声を掛けられ、自分でも信じられないくらい間抜けな声(本日二度目)を上げて後ろを振り向いた。そこには、きっと声の主であろう、一人の女子が立っている。


 玄関を開けながら、ということはこの一室に住んでいるのだろう……へ? マジで?


「えっちょ、まさか君、こんな家に住んでいるのか?」

「……ちょっと、何よその言い方。失礼じゃない?」


 俺の悪い癖だと思う。パニック状態になると、頭に思ったことを何も考えずに言ってしまうのだ。条件反射とは言え、確かに失礼なことを言ったので反省する。……よし反省終了。


 それにしてもさっきの女と言い、この女子と言い、どうしてこう……ルックスが整っているのだろう。今日は美人への遭遇率が上方修正されているらしい。


 特に目が綺麗だ。何もかも見透かすかのような、黒に鋭い光沢。けれどもそこには柔らかさも同時に存在する。単純に「綺麗だ」と形容することさえ相応しくないような気もする。


「……ちょっと、そんなにまじまじと見られると流石に恥ずかしいんだけど」

「あ、ああ。ごめん」


 女子は少し恥じらいながら言った。俺は視線がその姿に釘付けになってしまっていたことに気が付き、即座に目を逸らす。逸らす直前に見た恥じらう姿も、正直のところ絵になっていた。


 目線を逸らした先には、少女の家のものであろう、表札があった。


 表札とはいっても、苗字の書かれた薄い木のプレートが鉄製のフレームにはめ込まれただけのとても簡素なもの。


 鉄製のドアには少々ミスマッチなような気もするが、ボロアパートなので問題ない。そのミスマッチさもいい雰囲気を作っている。


 そこには〈明主寺〉と書かれていた。一体なんと読むのだろうか。

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