変わり者たちの出会い方(8)
ここは人通りの少ない場所にあるとは言え、腐っても男子トイレ。そしてすぐ近くの部室には部長たちもいる。
もし今の俺の状況を見たら、第三者からは一体どう思われるだろう。
きっとその目にはこう映るんじゃないだろうか。
「男子高生が人気のない男子トイレに女子を引き込んで襲っている」
と。
その瞬間、俺には変態という最悪のレッテルを張られた挙句、退学という(社会的)死への片道切符を握らされ奈落行特急列車でデスへゴーすることになる。
仮に、俺の必死の弁明によって無罪放免になったとしても、今後の学校生活に大きな支障が出ることは避けられない。よって俺は、この女の言い成りになる以外の選択肢が無かった。
「いい? アンタは今から私の質問に対して『はい』か『NO』で答えること。それ以外のことを喋ったら死なすわよ」
すかさず首肯する。死なすわよ、だってさ。こんなドストレートな脅しは人生初めてだ。
……訂正、学校で女子に脅迫されたこと自体が初めてだ。
そして何故、選択肢を日本語と英語で混ぜたのだろう。何か意味はあるのだろうか、という疑問は後になってから頭に浮かんできたものだ。心底どうでもいい。
「一つ目、アンタは一昨日、八皇子駅周辺で私に会ったか」
勿論こんな女に会った覚えは無い。Meetとsee、両方の意味で。
確かに俺は一昨日、短期雇用のアルバイトで八皇子に行ったが、店の顧客としてこの女は見ていないし、そもそもこんなに印象的(乱暴でガサツ)な人間は一度見たら忘れる方が難しいだろう。
俺は首を横に振って、『NO』の意を示す。
「嘘つくな‼」
……俺にどうしろと?
「……男は信用できない。本当は覚えていて、後で周りに言いふらすつもりなんでしょう⁉ えぇ⁈」
俺にはこの女の言っていることが何一つ理解できない。言いふらすって、一体何を?
もしかしたら俺がただ忘れているだけということがあるかもしれない。脳内にある最奥の記憶を呼び起こすため、俺は女の顔を凝視する。
きめ細やかな色白の肌に目鼻立ちは整い、スタイルの整った全身。多くの人がその見た目から「美しさ」を感じるに違いない。ただ、完全に整ったプロポーションというわけでは無く、どこか愛嬌を感じる体つきをしている。
そして何より印象的なのはその髪の毛。大和撫子よろしく艶のあるその長い黒髪は、例外なく見た者を引き付ける、まるで魔性の一物の様であった。かく言う俺も、その髪に釘付けになる。
きっと十二単を着せたらさぞ似合うことだろう、と俺は場違いなことを考えていた。
しかし、やはり俺はこの女と八皇子で会っていない。この髪を見て忘れるなどあり得る筈が…………ん、待てよ。
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