変わり者たちの出会い方(6)
「ムグームグムグムグ‼(ちょ、息できない! 死ぬ、死ぬってマジで‼)」
「何? なんて言ってるか全然聞こえないんだけど」
「ムグムグムー、ムームグム‼(そりゃそうだ、口塞がれてんだから。いいから放せ‼ 何か分からないけど、話なら聞くから取り敢えずどいてくれ!)」
「嫌よ。だって手を離したらアンタ思いきり叫ぶつもりでしょう?」
「ム゛―――――――‼(聞こえてんじゃね―――か‼)」
仁王立ちJKの手中でもがき苦しむ俺。しかしその手をどけようにも、JKとの身体が想像以上に密着している所為で上手く引き離すことが出来ない。
役得じゃんと思ったそこの君には是非ともこの苦しみを味わってもらいたい。
いや、正確には形振り構うこと無ければ無理にでも引き離すことはできそうなのだが、別の事情によってそれは阻まれる。
その……つまるところここで俺が思いきり身体を動かすと……触れてしまいそうなのだ。相手の胸部に。俺の腕が。
本当に命の危険を察知し始めたら世間体なんか気にしている場合ではないけど、現状ギリギリ意識を保てている。
この女にあらぬことを言いふらされて社会的な死亡を覚悟するよりも、とりあえずここは落ち着いて、何か他の策を考えよう。
……てか多分、万が一、億が一にも誤って胸を触ったりでもしたら、この女に物理的に瞬殺される気がする。少なくとも無事では済まされない。
目元まで手で押さえられていて、女の顔すらまともに見ることができない。ちくしょう、こんなことになるんだったら警戒を解くべきではなかった。
聞き覚えの無い声だから多分初対面だと思うんだけど、そもそも初対面の女子に半拘束状態にされるような粗相をした覚えは勿論ない。
それよりどうにかしてこの状況を打開しなければそろそろヤバくなってきた。酸素が薄くなって、意識が段々と覚束なくなる。
この際誰でもいい。誰か、誰か一人でも助けに来てくれれば……!
「……ねえ、今初狩君の声しなかった?……」
「……はい、なんか断末魔っぽかったですけど、確かに何か聞こえました……」
その声はすぐ近くの図書準備室、もとい文学部の部室からうっすらと聞こえてきた。
(部長たちの声だ‼)
おお、まさに地獄に仏、晴天の霹靂。これほどまでに部長の声が神の招来の音のように感じられたことがいまだかつてあっただろうか!
いつもは余計なことしかしないし言わない部長も、今だけはどんな女神よりもその存在を神々しく感じられる。
ありがとう部長、ありがとう世界。俺はこの世の万物に感謝しても、きっと感謝しきれない。
「……でもすぐ近くで聞こえたってことはもうすぐ来るんじゃないですか?……」
……なんかフラグが立った気がする。何となく、とんでもないことを言いやがった危険分子の気配がすぐ近くに……
「……でも叫び声が……」
「……きっと廊下にゴキブリでも出たんでしょう。そのうち来ますよ……」
ちょ、姿の見えないそこのお前、それ以上余計なこと言うんじゃn……
「……それもそうね。ちょっと見に行こうと思ったけれど、きっとすぐ来るわよね……」
カタン、ズズ……とパイプ椅子を引き直す音が静かに廊下に響いた。
「……終わった。」
たとえ部長が菩薩や女神だとしても、そのすぐ近くに死神が居た。
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