オケラーの公式

@ramia294

第1話

 武蔵野の森の中、人里から少し離れた場所に、そのお寺は、ひっそり佇んでいます。


 広い境内を取り囲む森には、見上げる様な大きな樹が、測った様に同じ間隔で並んでいます。


 秋には、落ち葉が、降り積もる森の地面は、フカフカの羽根布団で土を覆い隠したみたいに、柔らかです。


 たくさんの鳥や、動物が、集うこの場所は、虫たちにとっても、大切な生活の場でもありました。


 春が訪れ、お日様の光が、徐々に森の中にまで、差し込み始めると、たくさんの虫たちが活動を始めます。


 ある日の事。オケラが食べ物を探していました。


 ベキ、ベキ、ベキ、ベキ、と落ち葉の中を歩いていると、イモムシを見つけました。


「イヤー、これは美味しそうだ」


 オケラは、すぐにイモムシを食べようとしました。


「ちょっと待ってください。オケラさん」


 イモムシが、オケラに話しました。


「今、私を食べると、損ですよ。私は、これからドンドン大きくなって、やがて蝶々になります。今とは、比べ物にならない大きさです。それから食べた方が、今よりお得ですよ」


 オケラは、イモムシの言うことは、もっともだと思ったので、今回は、見逃す事にしました。


「しかし、イモムシ君。君が蝶々になったら、必ずもう一度ここに来たまえ」


 イモムシに約束をさせると、また食べ物を求めて歩き始めました。


 しばらく歩くと、今度は、アリに出会いました。


「これは、おやつにちょうど良い。いただきます」


「ちょっと待ってください、オケラさん。ここは、僕たちの縄張り範囲内です。僕を食べると、すぐに仲間が来て、オケラさんが、襲われますよ 」


 なるほど。それは、困ります。


 女王アリは、大好物ですが、働きアリのために、そんな危険は、犯せません。


 オケラは、アリを見逃しました。食べ物を探すため、オケラは、ベキ、ベキ、ベキ、ベキ、と歩いて行きました。


 それから、数週間後。


 約束の日に、約束の場所で、待っていると、蝶々が、現れました。


「オケラさん。約束通り来ましたよ。でも、私は蝶々になったので、もう地面を這いずる事が出来ません。私を食べたいのなら、オケラさんも空を飛んで下さい」


 イモムシの時から、オケラの羽根が、小さい事に気付いていた蝶々は、からかうように、言いました。


「あっ!ごめんなさい。そんな羽根では、無理ですね。では、これで」


 蝶々は、飛び去って行こうとしました。


 ため息をひとつ、ついた後、オケラは、呪文を唱えました。


「ムゲンカイビブン、ムゲンカイビブン、ムゲンカイビブン」


 すると、小さかったオケラの羽根が、どんどん、大きくなって伸びていきました。


「羽根を伸ばす秘技。名付けて、テラで展開。お寺の境内だから」


 オケラは、誰に言っているのでしょう?


「ネイピア!」


 分けの分からない掛け声と共に、弾丸の様に飛び出すと、唖然としている蝶々に追いつきました。


「必殺!イマジナリーパンチ」


 オケラが、強力なパンチを放つと、蝶々は、失神してしまいました。


 蝶々が、落ちた場所は、ちょうどアリの巣の目の前でした。蝶々は、落ちた時の大きな音で、飛び出してきたアリに見つかってしまいました。


「やあ、ご馳走が、空から降ってきた」


 アリたちは、巣の中から、ゾロゾロ出て来て、みんなで、巣の中に蝶々を運び込む事にしました。


 巣の中は、ほぼ空っぽです。


 オケラは、アリの集まっている反対の方向から、巣を掘り始め、いちばんのご馳走、大好物の女王アリを食べてしまいました。


 女王を失ったアリたちは、パニック状態。


 まとまりを失った働きアリは、既にオケラに対抗する術を失っています。


 オケラは、映画館で、ポップコーンを食べているかの様に、アリ達を食べていきました。


 もちろん、デザートというには、少々ボリュームがありますが、蝶々も約束通りしっかりいただきました。


 一見、関係の無い、アリと蝶々を結びつけ、いっきに食べたオケラは、イモムシに会った後に、アリと出会ってから、このことを計画していました。


「これぞ、オケラーの公式」


 オケラは、誰に言っているのでしょう?


 オケラは、最後のポップコーンを囓りました。


 武蔵野の豊かな自然の中のある日の出来事でした。


           終わり







 






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