第5話 隣人
一週間後、志摩くんが私の部屋を訪ねてきた。
「隣に引っ越してきた志摩です」
志摩くんは照れ笑いしたような顔で、手にはタオルを持っている。私は混乱していた。
「こないだゴミ捨てるときに由里子さんを見かけてさ。朝だから急いでいると思って声かけなかったんだけど、お知らせを兼ねてあいさつに行かなきゃと思って」
インターホンが鳴り、カメラを確認すると志摩くんが映っていた。ドアを開けると、志摩くん本人だった。
志摩くんから事前の連絡はなく、私は部屋番号を教えていない。
ゴミ捨てのときに私を見たと言っているので、ゴミ袋を見たのだろう。ここはゴミ袋に部屋番号を書くことになっている。
なんだろう、胸がざわざわする……。ストーカーみたいだと思った。
直接私に部屋番号を聞いてくれたほうがよかった。いや、それだと答えないと思ったのかな? 考えがまとまらない。
「あ、今小説書いていますよね? お邪魔してごめんなさい。あいさつだけしたかったんで。由里子さんが同じアパートだなんてびっくりしました。なんかあったらいつでも駆けつけるんで」
志摩くんはいつもの調子でそう言い、自分の部屋へ戻った。私の隣の部屋へ。
気味が悪かった。私はすぐに美絵にメールを打った。
こんなこと、斗真には言えない。また疑われるだけだし、第一斗真とは喧嘩別れしたままだった。
美絵、助けて。私を安心させる言葉をちょうだい。
けれども美絵からは期待の文面は届かなかった。
―志摩くんてストーカーの過去あるらしいよ―
美絵の彼氏が志摩くんと交流があると言っていた。事実だろう。
怖い。私は鍵とチェーンを確認する。
そうだ、志摩くんから貰ったお守りも捨てちゃおう。気持ち悪い。
チッチッチッ……。
何? クローゼットから音がする。
そういえば最近、音がしなかった気がする。音のするほうへ耳を近づける。ぬいぐるみから音がしている。
チッチッチッ……ジーッ……。
時計? ぬいぐるみが着ている時計型のベルトから音がする。
どうして……? カメラだ。
時計型デザインのベルトをよく見てみる。針を支える中心部分がカメラになっている。ただのプラスチックだと思っていた。
どうしてカメラだと気づいたのか。この緊張感で私の感覚が研ぎ澄まされていたのだろう。
ベルトを外してみる。その下の、服の部分にも小さな機械がついていた。盗聴器ではないだろうか? ドラマで見た記憶がある。
よく見るとぬいぐるみの目玉もカメラになっていた。だから金髪に黒い目だったのか。
そういえば昔はよく、ファンから貰ったぬいぐるみにはカメラや盗聴器が仕掛けてあるから持ち帰ってはいけないって話題があったな。
私はアイドルじゃないし、関係ないと思っていた。まさか自分がこんな目に遭うなんて……。
志摩くんは本当に、私がここに住んでいるのを知らないで引っ越してきたの?
今までも、見ているかのようなタイミングでメールをよこしてきた。
違う。このぬいぐるみをくれたのは、美絵だ。手作りだと言っていた。
美絵がカメラや盗聴器を仕込んだのだ。どうして?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます