第3話 ぬいぐるみ
「フランス人形、でいいのかな?」
私は思ったことを正直に言った。
「フランスぬいぐるみ、でもいいんじゃない」
美絵はそう言い笑っている。聞けば美絵の手作りだという。
「一人でいるから怖いんだよ、ぬいぐるみでもいれば少しは和らぐんじゃないかなと思って」
そういう気持ちで美絵はこの「フランスぬいぐるみ」を作ったらしい。
確かに、人形、だと怖かったかもしれない。けれどもぬいぐるみだと気持ちが和らぐ。プラスチック製の目玉が少しズレていて
注文したコーヒーが届く。私はブラックで飲む。美絵はミルクをたっぷり入れていた。
フランスぬいぐるみをよく見てみる。ワンピースに時計型のベルトをしている。美絵は不思議の国のアリスが好きだと言っていたことがある。美絵の趣味が反映されていてほほえましかった。
「すごいね、こんな大きなぬいぐるみ作っちゃうなんて」
ぬいぐるみは三十センチほどあった。カバンにつけるようなマスコット型ならまだしも、立派に「ぬいぐるみ」だった。
「最近ね、ハマっているの。次はブローチとか作ろうと思っているんだ」
美絵が手芸とは意外だなと思ったけれども、オシャレに熱心だからと納得した。
「ケーキ食べよう」
美絵が言う。そうだ、話に夢中だった。
ここのレモンケーキは有名だった。ホワイトチョコでコーティングされて、レモンクリームでデコレーションしている。甘みと酸味が絶妙だった。
ぬいぐるみをクローゼットの前に飾る。クローゼットは私が普段座っている椅子の後ろに位置する。私を見守る形になればいいと思った。
今日も音がする。
二日後、志摩くんと会うことになった。仕事帰りにコンビニで待ち合わせをした。
志摩くんは病院で働いていると言っていた。詳しい仕事内容はよく分からないけれども、珍しく定時で終わったと言っている。私との待ち合わせ時間のために定時を強行するのかもしれない。志摩くんは、いい奴だ。
駅前のコンビニに、志摩くんは先に来ていた。いつもと同じ笑顔だった。志摩くんは、お守りをくれた。
「友達に聞いて、効きそうなお守りを厳選した」
志摩くんは友達が多い。そっち系に詳しい友達に聞いてくれたのだろう。ありがたかった。
そのまま少し立ち話をした。私の最近の仕事の話や彼氏の話。
志摩くんは「看護師がどうの」と言っていたが、志摩くんの仕事内容は分からないままだった。
お互いに近況報告のようなことをして、コンビニを後にした。
帰宅後、美絵から貰ったフランスぬいぐるみのボタンに志摩くんから貰ったお守りをかけた。御利益二倍だ。
土曜日、特に予定がないので午前中から小説にとりかかる。投稿サイトで主催しているコンテストに応募する作品を書く。
書き始めようとするとメール到着音が鳴る。志摩くんからだった。
―由里子さんの小説読みました。面白くて好きな感じです。―
ちょうど小説を書くタイミングだったのでびっくりしたが嬉しかった。少し自信がつく。
半分以上書いたところで、声にだして読んでみる。これは誰かが言っていた確認方法だ。音読してひっかかるところがないかを確認する。
普段、自分が小説を読むときに音読はしないけれども、これはいい方法だと思っている。
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