第2話 フランス人形

 あと頼れるのは……。

 志摩しまくん。志摩くんと知り合ったのは三年前。友達に連れられて行ったライブハウスで知り合った。

 あの時は彼氏もいなくて気軽に連絡先を交換した。SNSもあり、今でも交流している。

 志摩くんは可愛い顔立ちをしている。絶対モテると思うのだが、彼女がいるのかは分からない。友達が多くて、よく男女混合グループで遊んでいるみたいだ。

 志摩くんにメールをするとすぐに返信が来る。これも志摩くんに友達が多い要因だろうか。そんなことを思っていると、志摩くんから電話が来た。


「なんの音だろう? 怖いよね。なにかあったら駆けつけるから遠慮なく呼んでね由里子ゆりこさん」


 嬉しかった。志摩くんだけが信じてくれた。

 私は状況を説明するためにも、今まで秘密にしていたことを志摩くんに打ち明けた。


 私は趣味で小説を書いている。作品をwebサイトに投稿している。これを知っているのは斗真と美絵だけだった。

 自分が書いた作品に自信がないので、知っている人に読まれるのが恥ずかしくて秘密にしていた。

 パソコンに向かって小説を書いているとき、背後から音がする。要約するとそのようなことを志摩くんに言った。


「読んでみたい」


 志摩くんの無邪気な顔が浮かぶ。私は志摩くんに、投稿サイトのURLをメールで送った。


 斗真には一応報告しておいた。志摩くんが相談に乗ってくれたと。

 斗真からは志摩くんと私の仲を疑うようなメールが届いた。

 自分は見向きもしなかったくせに。何を今さらと思った。




 日曜日は秋晴れだった。草木に露がついている。だんだん秋になるのだと思った。寒くなるのは嫌だけれども、季節の変化を見つけたことがなんだか嬉しい。

 今日は地元の喫茶店で美絵と会うことになっている。

 先日、美絵からメールが来た。


―この前は忙しくて由里子の話を聞けなくてごめん、落ち着いたので会ってじっくり相談してほしい―


 嬉しかった。

 地元の喫茶店なのでそこまで気張った服じゃなくていいだろう。けれどもあんまり手抜きのファッションも美絵に失礼な気がする。

 細身のジーンズに薄手のニットあたりが無難かな。


 地元の喫茶店は最近、昭和レトロという言葉で巻き返しをしているようだった。

 昔から変わらない薄汚れた店名の装飾も、昭和レトロだと思えばオシャレで売りになるのだろう。

 喫茶店の向かいに建つ銀行に車を停める。美絵が勤める銀行だ。

 土日はみんながここに車を停める。田舎なので特にうるさくはない。

 車で待っていたら美絵が来たので一緒に喫茶店に入った。

 美絵はショートパンツにロングブーツを履いていた。ひざ掛けを持って来たので寒くはないだろうと言っている。オシャレに熱心だ。

 午前十時。コーヒーを飲むには最適な待ち合わせ時間だと思う。


 店内はちょうどよい気温だった。昔から変わらない内装にホッとする。手書きのメニューも味がある。

 私はオリジナルブレンドとレモンケーキを注文した。美絵はオリジナルブレンドとアップルパイを注文した。

 

「これ、プレゼント」


 美絵が大きい紙袋からガサガサと何かを取り出す。

 人形だった。フランス人形といえばいいのだろうか。金髪にドレスを着た女の子が座っている。構造的には中に綿が入っている布地だし、髪の毛は毛糸を使っている。

 素材的にいえばぬいぐるみに分類してもいいような気がするが、ひっかかったのはそこではない。

 目の色だ。金髪に黒い目の人形。それが、これを「フランス人形」と呼んでいいのか迷わせる要因だった。


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