第2話 フランス人形
あと頼れるのは……。
あの時は彼氏もいなくて気軽に連絡先を交換した。SNSもあり、今でも交流している。
志摩くんは可愛い顔立ちをしている。絶対モテると思うのだが、彼女がいるのかは分からない。友達が多くて、よく男女混合グループで遊んでいるみたいだ。
志摩くんにメールをするとすぐに返信が来る。これも志摩くんに友達が多い要因だろうか。そんなことを思っていると、志摩くんから電話が来た。
「なんの音だろう? 怖いよね。なにかあったら駆けつけるから遠慮なく呼んでね
嬉しかった。志摩くんだけが信じてくれた。
私は状況を説明するためにも、今まで秘密にしていたことを志摩くんに打ち明けた。
私は趣味で小説を書いている。作品をwebサイトに投稿している。これを知っているのは斗真と美絵だけだった。
自分が書いた作品に自信がないので、知っている人に読まれるのが恥ずかしくて秘密にしていた。
パソコンに向かって小説を書いているとき、背後から音がする。要約するとそのようなことを志摩くんに言った。
「読んでみたい」
志摩くんの無邪気な顔が浮かぶ。私は志摩くんに、投稿サイトのURLをメールで送った。
斗真には一応報告しておいた。志摩くんが相談に乗ってくれたと。
斗真からは志摩くんと私の仲を疑うようなメールが届いた。
自分は見向きもしなかったくせに。何を今さらと思った。
日曜日は秋晴れだった。草木に露がついている。だんだん秋になるのだと思った。寒くなるのは嫌だけれども、季節の変化を見つけたことがなんだか嬉しい。
今日は地元の喫茶店で美絵と会うことになっている。
先日、美絵からメールが来た。
―この前は忙しくて由里子の話を聞けなくてごめん、落ち着いたので会ってじっくり相談してほしい―
嬉しかった。
地元の喫茶店なのでそこまで気張った服じゃなくていいだろう。けれどもあんまり手抜きのファッションも美絵に失礼な気がする。
細身のジーンズに薄手のニットあたりが無難かな。
地元の喫茶店は最近、昭和レトロという言葉で巻き返しをしているようだった。
昔から変わらない薄汚れた店名の装飾も、昭和レトロだと思えばオシャレで売りになるのだろう。
喫茶店の向かいに建つ銀行に車を停める。美絵が勤める銀行だ。
土日はみんながここに車を停める。田舎なので特にうるさくはない。
車で待っていたら美絵が来たので一緒に喫茶店に入った。
美絵はショートパンツにロングブーツを履いていた。ひざ掛けを持って来たので寒くはないだろうと言っている。オシャレに熱心だ。
午前十時。コーヒーを飲むには最適な待ち合わせ時間だと思う。
店内はちょうどよい気温だった。昔から変わらない内装にホッとする。手書きのメニューも味がある。
私はオリジナルブレンドとレモンケーキを注文した。美絵はオリジナルブレンドとアップルパイを注文した。
「これ、プレゼント」
美絵が大きい紙袋からガサガサと何かを取り出す。
人形だった。フランス人形といえばいいのだろうか。金髪にドレスを着た女の子が座っている。構造的には中に綿が入っている布地だし、髪の毛は毛糸を使っている。
素材的にいえばぬいぐるみに分類してもいいような気がするが、ひっかかったのはそこではない。
目の色だ。金髪に黒い目の人形。それが、これを「フランス人形」と呼んでいいのか迷わせる要因だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます