音がする
青山えむ
第1話 音
音がする。
パソコンに向かっているとき、テレビを見ているとき。
背後で音がする。カサカサ。トクン。チッチッ……。様々な音がする。
ニュースでは
虫でもいるのかな、嫌だなあと思った。防虫スプレーを買ってみたり、ネズミ用の薬を置いてみた。
効果はなく、相変わらず音がする。けれども虫やネズミじゃなかったんだという安堵はあった。きっとすき間風か、隣の部屋の音だ。
こういうとき、一人暮らしが怖くなる。
二年前からこのアパートに住み始めた。
朝仕事に行き、ほぼ毎日定時で帰宅する。ときどき彼氏と外食をする、そんな毎日だった。
今朝は車のフロントガラスに
いつ設定されたのかは知らないけれど、ニュースで二十四節気を聞くたびに「本当にそうだ」と思っている。
近年は異常気象と言われ猛暑や大雪が続いているけれども、基本的な気候の移り変わりは昔からほぼ同じということだろうか。不思議だ。
朝だけじゃなく、日中も涼しくなってきた。
物事を落ち着いて考えられるようになってきた。
あの音が虫の
私の思い込みではないし、隣の部屋の音でもない。
やっぱり音は、私の部屋からしている。
「気のせいだろ、音なんて色んなところからするもんだよ。悪いけど新製品のことでちょっと忙しいんだ」
彼氏に相談しようとしたら、そんな言葉が返ってきた。
斗真とは二年前、合コンで知り合った。私はちょうど一人暮らしを始めたばかりでなんでもできる気がしたし、なんでも挑戦していい気がしていた。
合コンの席で斗真は口数が少なめだった。他の男に比べてミステリアスな感じが私の気を引いた。他の女子もそう思っただろう。
けれども私には強みがあった。昔から言われる、派手顔。マスカラをぬらなくても濃いまつげ、大きな目。細い太ももはショートパンツを映えさせる。
この外見のおかげでチャラついた男によく声をかけられたのも事実だ。しかし回数をこなすうちに、あしらい方も覚えてきた。
私は外見と中身が違う。けれども与えられた外見の良さは自覚している。
無口な斗真に好感を抱いた。外見とのギャップに驚いたのか、斗真も私を選んだ。
つきあっていくうちに、斗真は徐々に自分を出してきた。
男友達とはよく話すが、知らない女の人とは目も合わせられない。
そして自信家だった。仕事もだんだん重要なものを任せられるようになってきた。斗真の自信に拍車をかける。そんな循環だった。
斗真は取り合ってくれない。
私は
美絵とは小学校から高校まで一緒だった。ときどきクラスが離れることはあったけれども休日には遊んで、ずっと一緒にいる。
私と服の趣味が似ているのもあって今でも一緒に買い物に行ったりする。
「気のせいじゃない? 音って気にすると、どこからでもするよ」
美絵からの言葉も、そんな感じだった。
美絵は契約社員で銀行に勤めている。契約社員といっても、正社員と仕事は大差がないようだ。
このまま仕事を覚えると正社員になれるかもしれないと言っていた。仕事柄、難しいことが多いようで気を張り詰めていると言っていた。美絵に負担をかけたくない。
私は「ごめんね」と言って電話を切った。
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