子から学ぶ事もある

 新たな生を受けて早3日。


 食事に関しては相変わらず改善の見込み無し。というか今日に至るまで何も食べていない。

 正確には母ドラゴンの居ぬ間に巣の周りの水を飲んではいたけど、こんなもの腹の足しにもなりはしない。


 幸いにも赤子と言えどドラゴンの体は丈夫にできているようで、何も食わず3日経った今も問題なく行動は出来る。なのでカゴ作りも順調に捗った。


 母ドラゴンは毎日せっせと俺に食料という名の死骸を運んできてくれる。でも、いい加減伝わってほしい。食えんのだと。

 持ってくるもの尽くが動物の死骸。1度我慢ならずにデッカイ声で「キュキュイキューキュイだから生じゃ食えねーの!!!」と吠えてみたが、やはり伝わらなかった。


 一向に食おうとしない俺に対して、母ドラゴンは困惑(たぶん)しながらも飽きもせずに狩りに出掛ける。

 それ自体は子を育てようという気持ちが伝わってきてありがたいと思う。だけど違う、そうじゃない。伝われ。


 本日も変わらず狩りに出掛けて獲物を持ち帰り、俺に差し出して拒否られるというお約束を済ませた後だ。

 ちなみに死骸は仕方なく母ドラゴンが食ってくれているから、巣の中が臭くなる事もない。


 「……」


 「(やりづら……)」


 そして現在。完成に近づくに連れて、隠れてカゴ作りをするのも難しくなった。

 赤子がカゴを作ってるなんて不審に思われて当然だろうから、母ドラゴンが居ない間にコソコソと進めていたがついにバレた。


 が、母ドラゴンは特に不審に思うような素振りは見せず、横たわって興味深そうに俺の作業を見守るだけに留めている。


 咎められないのはありがたい。しかし真横からジッと見られ続けるのもやりづらい。


 そんな事を思いながらも手は止まらない。

 初日の拙さが嘘のようにテキパキと進んでいる。


 これなら明日には完成するだろう。

 何とか産まれてくる前には間に合いそうだ。


 「……」


 「キュ?」


 「……」


 「(へぇ、驚いたな)」


 横たわっていた母ドラゴンが体を起こし、何やら片手で藁を掴む。そのまま座り込んだかと思えば、何とこちらをチラチラと見ながら自身も藁を編み始めたではないか。


 前々から知能は高い部類なんだろうと当たりをつけていたのが見事に的中だ。まさか俺の真似を始めるとは。


 「……???」チラチラ


 両手の爪で藁を摘み、どうやるの? と言いたげに俺の手元を凝視している。


 ふふふ、やりづらかろう。俺の小さな手ですら編み慣れるのに一苦労したのだ。そこまで大きいと藁を摘むことさえ困難と見た。


 「……ウゥ」


 ふと、情けない声が聞こえた。

 出処は言わずもがな母ドラゴン。上手くいかない事に何処かションボリしているようにも見える。


 しょうがないなぁ。


 「キューキュ母様よ


 「?」


 「キュキュイキュー手元よく見てなー


 しっかりと手元が見えるように、母ドラゴンのすぐ前に座り込んで編み編み。分かりやすいように速度もゆっくりにして、一工程ずつ丁寧に編み込んでいく。


 「キュどう?」


 「……グル」


 分かった。そう言いたいのか、母ドラゴンは小さく頷くと再び藁と睨めっこを始めた。


 やはり知能が高い。言葉も通じないままで、たった1度教えただけなのに、母ドラゴンは正しい順序で編み始めた。

 流石に編み込む速度は非常にゆっくりとした物だが、ちゃんと編めているのだから凄い事だ。


 デッカくても手先器用なんだな。


 と思った矢先、母ドラゴンの手の中で形になってきた藁がブチッとちぎれた。


 あ〜、まぁそりゃそうだよ。この体でさえ、力を込め過ぎるとちぎれるくらいには脆い藁なんだ。

 母ドラゴンのパワーなら、ほんの僅かな力加減のミスで粉々になるのは必然。


 「……」


 「(しょんぼりしてる)」


 ドラゴンなんて災害級の超危険生物という認識でしかなかったのに、いざ子になって観察してみれば中々に可愛らしい一面もあるもんだ。

 それとも聖皇竜が特別なだけか? 少なくとも、ドラゴンがこんな人間じみた事をするなんて聞いた事ないし。


 「……」


 「(そんな見つめられてもなー。……あ、そうか。藁が小さ過ぎるのがダメなら)」


 我、閃きたり。

 1本1本の藁は細く脆いが、こうしてグリグリと藁同士を交互に編み込んで、最後に両先端を固く結べば――。


 「キュイ〜どやぁ


 「……!」パチパチ


 強度は倍。ちょっと太めの藁完成である。


 こうして編めばいいぞ〜と見せてやると、母ドラゴンは両手で控えめな拍手を送ってくれた。


 ……ホントにドラゴンか? コイツ。俺と同じく元人間って言われた方がしっくり来るぞ。


 「……」チラ


 「キュイキュイそうそう


 「……!」


 同じように藁を太くして、どう? と見せてくる母ドラゴンに頷いて返す。

 パーッと見るからに表情が明るくなった母ドラゴンは、太藁をせっせと量産し始めた。そして太藁が出来ては逐一俺に見せて出来栄えを褒めてもらおうとしてくる。


 途中からちょっと反応が面倒になって、内心「はいはい、カーサマスゴイネー」とテキトーに流していたのだが、そんな反応でも母ドラゴンは嬉しそうに口角を上げていた。


 何だコイツかわいいな。


 「〜♪」


 「(え!? 鼻歌!?)」


 手を休めてボーッと母ドラゴンを観察していると、何と鼻歌まで歌い出したではないか。

 しかも、たまに聞く「グルル」みたいな低い唸り声ではなく、とてもドラゴンが出している音とは思えない程に綺麗な高音。


 そこに白髪の美女が居るのを幻視してもおかしくはない、美しい声だ。


 いやはや、ドラゴンが鼻歌とは。これってドラゴンの生態についての大発見なんじゃないか? 学者達が聞いたら絶対飛びつくぞ。


 こんな人間くさいドラゴンが居ていいのか。中身人間の俺が言うのもおかしな話だけど。


 「〜♪」


 「(ま、ジッと見られながら作業するよりはいいか)」


 今はこの貴重な鼻歌に耳を傾けさせてもらうとしよう。

 何か妙に心地良くて瞼が重いし……あれ? これって子守唄効果?





――――




あとがき。


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