第45話 遮

 「あのときのはなし」をされるのが怖くて、そのせいで同窓会といった類のものにある種の忌避感が拭えない。昔の話ほど恐ろしいものはないし、それが自分の記憶にない話ならば尚更である。過去はどう足掻いたって変えられない。だからこそ過去は常に私の手の届かないところに静かにあるだけでいい。

 思い出すのは思い出したくないことばかりで、苦しい。


 幸福だった三月が終わり、また一人の生活が始まる。希死念慮は相変わらず消えないが、そう悪いものでもない。こう思えるまでに長くかかったが、苦しんだ分だけ私は私を確立できたのだと考えれば必要なことだったのだと割り切れる。一人も悪くない。


 ただ、なりたい私になれなかった現実が、いつまでも私を突き刺すだけだ。


 夜景が綺麗だ。今日の空はよく晴れている。当分離れることはないだろうこの街を愛せるようになるまで、どれくらいかかるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る