第43話 欠

 エネルギーは不足している。どうやら新しい活力が必要らしいが、いかんせん長くこの状態が続いていたためか入手方法がわからない。気力がなくても時間は過ぎるし一日はたやすく終わる。何もかもが足りないし、足りない毎日を愛することもできない。余裕がない。余裕がないのに若さを浪費していることだけは勿体ないと感じる。

 足りない。だから、文章を書くことが必要なのだと思う。


 記憶の底に眠っているありし日々たちをそっと瞼の裏にしまい込む。もうこれらは必要ない。ただ、時々思い出して懐かしむことはこれからもあってもいいかもしれない。なんて。

 涙目になっていると気づかれた。大丈夫だと答えたが、その真意まで見抜かれたわけではないだろう。嘘をつくのは得意ではないから、本当のことを隠したいことぐらいはどうか許してほしいと思っている。


 美しい三月の呪いに長く魅せられていたが、この魔法もそろそろ溶ける。時間というものは意思とは無関係に過ぎていくだけのもので、だから忘れたいことも忘れたくないことも一緒くたになって流れて消えていく。

 三月。この短い春は、毎年のように私に何かを与え何かを奪っていく。一昨年も去年もそうだったように今年もそうだった。来年も私にとって三月はそういう月になるのだろう。憎かった。それと同時に愛してもいた。だから三月ではないこれからの日々の間も私は嫌悪していたはずの三月を渇望してしまうのだろう。

 今年も桜が綺麗だった。春だ。

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