第42話 刷

  先の短い幸せに浸る日々。少しでも長く続きますようにと切に願いながら、それが叶わないことは十分にわかっている。今この時点で既に終わりが見えてしまっている。だからあまり前を見ないようにした。

 多分、これが正しい。これで正しい。

 それでも幸せであることに違いはなかったのだから。


 綻びというものはどこからでも生まれてしまうもので、そのわずかな隙を突かれたのだとそういう風にも捉えることができる。どうだっていい。

 八方美人など自分には全うし切れないことくらい、とうの昔からわかっていたことだったろうに。ずっと、何をしているのだろうか。


 指先が冷たい。春の到来を肌で感じた数日前の温もりはいつの間にか消えていて、でもきっと暖かさは何でもないような顔をしてすぐに戻ってきて、瞬きする間もなく暑い夏が来るのでしょう。春は一瞬で儚い。だから人はその短い春を切に追慕するのでしょう。


 長い一年だった。ずっと苦しかった。今年はもっと楽に生きてもいい。

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