第30話 類
全てどうでもよかった。どうでもいいからこんな無茶振りができる。どうでもいいから人生投げ捨てるようなことが平気でできる。どうでもいいから、だからあまりにも馬鹿げていたその賭けに乗ってやることにした。その時点での発言は冗談ではなかったが本当ではなかった。
自分に価値などない。だから、どうなってもよかった。
ただ、そう言ったときに笑ってもらえたので。
それが、人生の転換点になった。
なってしまった。
それだけだ。
誰かに誇れるような生き方ができていない。君はどういう人間なんだと真っ向から問われたときにうまく答えられなくなっていた。言葉が簡単に紡ぎ出せないのだ。形のある何かになれる気が全くしない。そもそも、そんなことを考えている精神的余裕はない。
人との関わりの中で人は変わるのだと、滔々と関わり合いの大切さを語るその人を見つめながらマスク社会であることに密かに安堵する自分がいた。私はどんな表情をしていただろうか。途中から発声ができなくなって赤べこの如く頷くだけになった私を、どう評価したのだろうか。
しかし、過ぎたことだ。いずれどうでも良くなる。
きっと次はないだろうと、ゆらゆらと消えていく影を眺めながら思った。
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