第29話 縹

 腹の底に気持ち悪いものが溜まっている。胃袋が苦しい。三年前からご飯を美味しく食べれたことがほとんどない。それは誰と何を食べても変わらない。食事はもう私の楽しみにはなり得ない。苦しい。流動食が許されるならそれで生きたい。興味関心がない事柄に毎日時間を割かなければならないのが、苦しい。


 苦手と向き合うのが昔から苦手だった。逃げが全ての人生だった。それでいいというのも生き方の一つでそれを否定する気はないが、それは自分が許さないのだ。逃げたい私をこの世界で誰よりも私が一番許せない。

 要するに怒られたかった。律する大人が周りにはいない。だから私は自分一人の力で頑張るしかないのだろう。

 頑張る。曖昧で残酷な言葉だと思う。


 目覚まし時計が鳴いているのを黙って見ていた。

 起きなければならないことは頭ではわかっていたが、このまま起きなければどうなるだろうとか、思考はどんどん後ろの方に流れていた。今年に入って、朝起きてからまともに活動できたためしがない。

 目覚まし時計は変わらず鳴っていた。煩かった。


 私はどうやって話をしていたのだろう。自分自身の会話能力の衰えを目の当たりにし愕然とした。会話の構成がうまくいかない。これまでうまくいってるつもりだけだったのかもしれない。

 自分の話し方が嫌いになった。またひとつ嫌いなものが増えてしまった。

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