第28話 本
本を買った。相当久しぶりだ。中学生の頃はよく読んでいたものだが気付けば読まなくなっていた。本を読まないということは、その人が孤独ではないという証拠である。太宰治の言葉らしいが、この言葉を出会った当時これほど身をもって実感するとは思わなかった。孤独になったことをはっきりと自覚した。ただ、この自覚は必ずしも悪いことではない。孤独が寂しさとイコールとは限らないのだから。
ちなみに一週間たった今も一ページも開いていない。活字を読む元気がない。
一人で生きていく練習をしなければならない。この先誰かと時間を過ごすことがあっても結局私は一人になるのだから、一人の時の自分のことも愛せるようにならなければならない。
私に一人のときの私があるように、他の人にも一人のときの自分がいるということを、時々忘れてしまう。
三日ぶりに外を出た。外は晴れていた。終日カーテンを締め切った生活をしていたから気づかなかったものだが。一瞬だけマスクを取って大きく深呼吸をした。冬の空気はひんやりとしていた。心地よかった。視界に映る全てのものがこの上なく美しく清らかなものに見えた。
生きている。私はたしかに、ここにいる。
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