第26話 蕎
私を返してほしい。誰も信じてくれないだろうが、かつての私はこうではなかったのだ。私にも上手に生きていた時代があった。私にもみんなの輪の中で笑えていたときがあった。誰も覚えていないだろう。いつか私も忘れてしまうだろう。だからその前に私を返してほしい。
全部あげてしまった。私は私に価値を感じていなかったから。
目が覚めてからもしばらく動けない。幸せな夢を見たことがなかった。例えば夢の中で好きな人と付き合えたことがない。例えば夢の中で憧れの学校に合格したことがない。夢の世界もどこか現実に即していて、それどころか現実よりもリアルでおぞましいことさえあった。現実世界と等量の絶望を夢の中でも味わう羽目になることは一度や二度ではなかった。寝ても救われない。睡眠は私にとっての救済にはならなかったのだった。
少しずつ甘いものが食べれるようになってきた。これが幸か不幸かはまだわからないが、一時期かなり偏食だったことを鑑みれば食べ物の選択肢の幅が広がったことは素直に喜んでもいいことなのかもしれない。
少しずつでいい。私は私の好きをまた追求できるようになりたいと思っている。また真っ当に幸せになりたいとも思っている。それがいつ実現できるかはわからないけれど、それまでの準備期間が今なのだと考えれば、こんな現実も悪くないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます