第25話 池

 私は私が善良な市民ではないことをよく理解している。

 私は私が優しい人間ではないことをよく理解している。

 私は私が     ではないことをよく理解している。

 私は。

 なんだ。



 普通に生きてるふりをしろと、かつて唯一の友人だった彼女はそう私に言いました。擬態していれば浮くことはないのだと。

 浮世離れしていると、かつて先生は生徒だった私にそう言いました。あなたは普通ではないのだと。見抜かれたような気分になりました。

 普通は苦しいものでしたが、慣れればなんてことないものです。人間は他者理解を常に求めていて、共感を求めていて、それに応えていればわかってもらえた気になれるものです。ありがとうと感謝される度、私は一つ赦されたような気持ちになったものでした。

 私はといえば誰かに理解してもらおうと思ったことはありませんでした。普通ではないのですから。見抜かれなければそれで良かったのです。理解者など必要ない。私は一人で生きていけるのだと思っていました。

 人間はそんなに強くないのだと、知ったのは最近のことです。最近のことでした。


 冷凍パスタは素晴らしい。おそらく以前にも似たようなことを書いていたのだが、どうだっていい。冷凍食品の何が悪い。一人暮らしという環境は料理にあまりにも向いていない。食欲減退は日々進行していて、ただそれは困るようなことではない。

 最近朝の記憶がない。昼は寝るのが常になっている。そして気づけば夜になっていた。起きてる時間が日に日に短くなっていく。都合の悪いことはどんどん忘却される。ずっと大切なことを忘れているような気がするが、何も思い出せない。

 私は一人で生きていけるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る