第23話 剣

 人生の主人公はいつだって自分で、自分の選択で先のストーリーはどうにでも変更可能だし、どういうふうに動くのかも全部自由だし、でも一度進んだら後戻りはできないし、セーブしたところからやり直せない。

 自由は苦痛だった。主人公なんて配役、譲れるものなら別の誰かに譲ってしまいたい。あまりに荷が重すぎる。


 スポットライトが当てられない今の人生にそれなりに満足している。きっとこのまま消えてしまっても誰も気づかないんじゃないかとさえ思える。理想の死に方だった。自分がある日突然消えても悲しむ人間がいなければいい。世界とはそれくらいの距離感でいい。

 傷つけたくない大好きな人たち。何も知らないままでいい。


 常に人の声がしないと気が狂いそうになる。テレビは必要だろうかと鼻で笑っていた春を思い出す。一人で暮らすことの意味をよく理解していなかった。しかしテレビは元から見ない性分だったのでこれで正解だったとも思う。

 インターネットはコンテンツで溢れかえっていて、何かしら自分に合うものには必ず出会えるので素晴らしい世界に違いない。膨大な電子の海に、許されるならいつまでも漂っていたい。


 同じ夢を一週間くらい見ている。内容が全く同じ。そして同じところで目が覚める。普通の日常と見紛う風景。いつかのあの日の夢。悪夢だった。眩暈がする。寝るという唯一の快楽さえも邪魔される。違う。何もかもが間違っている。

 寝たい。ちゃんと寝たい。できれば夢なんて見たくない。

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