第19話 揚

 喉が渇いていた。久しぶりの感覚だった。あまりに人間離れな生活習慣だったからか、人間らしい感情のほとんどを失っていた。生存欲求に欠けていたし、そもそも自分以外の人間に興味が持てなくなっていた。

 だから、喉が渇くという、普通の感覚に、うっかり驚いてしまった。


 ネイルを張り替えた。今の色の方が私らしいと思えた。赤色は私の色じゃなかった。赤色が目に入るたびにどことなく緊張する自分がいた。確かに安心できる色ではない。赤は警戒色だの、毒々しいだの、色々な意見はあるものの、それでも好きでありたいと願った色だった。

 赤は私の色じゃない。

 わかっていたことではあったが、再認識して少し悲しくなった。


 好きの持続に今日も苦しむ。

 飽き性だった。飽き性だから長く好きでいることがどうにも難しかった。好きが揺らぐたびに好きの理由を探し続けた。証明できれば、自分を納得させることができればそれでよかったのに、戯言めいた言い訳しか出てこなくて、それで段々自分が何を好きでいるのか、自分でもわからなくなっていた。

 本当は何も好きではなかった。相対的な好きは常に上位互換可能で、たまたま他にのめり込めるほど夢中になれる何かが現時点で見つかってないだけだった。

 また何かを好きになれるだろうか。

 また人を好きになれるだろうか。

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