第17話 調

 世界、あまりに生きにくい世界。

 疲れてしまった。一度そう言葉にして仕舞えばなんてことなかった。要するに、疲れたことすら認識できなくなっていた。そういう日々が続いていた。そうするしかなかった。誰も気づけないのだから。

 言語化というプロセスは、思うに自分の人生の中で大きな役割を果たしてきたように思われる。事象に相応しい呼称を見つけることで安心ができる。一般化できる。自分だけじゃないって思える。

 正しい日本語を探し続けている。この感情はなんだろうか。


 仏教を学んでいる。愛別離苦。怨憎会苦。求不得苦。五蘊盛苦。

 生きることは全て苦しみだった。変わるものにも変わらないものにも結局は人は足掻いて苦しむことになる。それを悟るのが仏教の真理とするならば、足掻くことに意味はあるだろうか。苦しみながら足掻いている今に、果たして意味はあるだろうか。

 人生に一つだって無駄なことがないと信じている今、信じるしかない今があるから、無意味を突きつけられたときに等身大の自分と向き合えるのかどうか、今でも、今でもわからない。


 家に篭りがちの日々が続いていたためかイベントに疎かった。なのでクリスマス前と聞いて初めて目的に気づいた。寂しそうな人だとは話してて思ったが自分も寂しい人間なので何も言えなかった。知らないふりをした。馬鹿なふりをした。その方が、都合が良さそうだと思ってしまった。


 この水圧に負けない何かが欲しかった。それが何なのか、どうすれば手に入るのか今でもわからないまま。

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