第14話 箱

 壮大な夢を一つ持っていた。他者から見ればかなり馬鹿げており、陳腐であり、小学生の夢じゃないんだからと嘲笑われることは間違いないので、他の人に打ち明けたことはほとんどない。家族でさえ、あれは子供の頃の夢に過ぎなかったのだ、ととうの昔に忘れていることだろう。

 人生を賭けた夢だった。それゆえ、叶えるには運と実力を揃え長い時間をかけるか、もしくはお金を稼ぐかの二択だった。

 後者の方が叶えられる気がした。だから私はお金がいるのだ。夢は誰にでも叶えられるわけじゃない。夢を叶えるには金がいる。悲しい話だ。


 それはそれとしてもう一つの夢がある。本来その夢は今年の三月に潰えたはずの夢だったのだが、たった一人の友人の馬鹿げた一言のせいで私はまた同じ夢を見る羽目になってしまった。一番仲がよかった人を自ら拒絶し、人間関係のほとんどを断ち切り、かなり多くのものを失った。

 夢には対価が必要だ。だからこれは必要な犠牲なのだ。そう言い聞かせないとやってけない。悪魔が弱い私に囁いたのだから。その声に耳を傾けてしまったのだから。今更引き返すことなどできるはずがなかった。

 今更何を後悔しているのだろう。叶えられれば全部うまくいくのだ。

 悪い夢だ。美しい夢だ。夢なら早く醒めて。夢を見れば見るほど、現実があまりに酷であることを直視しなければならないのだから。


 昔の日記は毒だった。見返したときに嫌な気分にならないように、と一番幸せな頃に日記をつけていたからか、心の底から人生を楽しんでいた自分を今になって見せつけられることになった。惨めだ。昔の自分に負けるなんて。

 幸せな人間が嫌いだ。たとえそれが昔の自分であったとしても。

 ずっと、何をもがいているんだろう。諦めちゃえば楽なのに。認めてしまえばもっと上手に生きられるのに。こんなに苦しむこともないのに。

 プライドが高かった。最悪だと思った。

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