第13話 銭
この物語に結末はない。
私が生きてる限り、文章は続くだろう。
物語とも日記とも呼べない、ただ戯言を連ねるだけの話ではあるのだが、この広い世界の誰かが読んでいることを信じて。
今日もパソコンと向かい合って私はこれを書いている。
別れが辛かった。
自分から人を拒絶したのは人生で初めてのことだった。それも、大事なことから取るに足らない雑談までなんでも話せる人だった。絶対、という言葉が世界で最も似合わない人でもあった。
若かった。だから時間が経てば全部うまく行くと思っていた。
その考えが甘かったと気づいた頃には何もかもが遅かった。もう元には戻れないだろう。もう、元には戻れないだろう。
私が。
私が全部壊したのだ。
11月は失恋の季節だ。そう結論づけ、大人しく塞ぎ込んで一人でよく泣いていた。小学生みたいな泣き方だった。もしかしたら隣の住人にも聞こえていたのかもしれない。怖くて聞くことはできないが。
好きだった失恋ソングが一切聴けなくなった。恋愛ドラマや恋愛漫画は元々読まなかったが益々手につかなくなった。恋愛を想起させるコンテンツを全部自分から遠ざけた。何も思い出したくなかった。
部屋には過去の遺物があまりに多かった。元々断捨離が下手だった。その報いが今になって牙を剥いて襲いかかってきたのだった。彼らの攻撃を避け切ることができなかった今精神はかなり限界を迎えていた。それでも捨てることはできなかった。目を瞑れば思い出す昔の話。忘れようとする試みは今日日まで全て失敗に終わっていた。わかっていたことではあったが。
鏡を見て愕然とした。かなりひどい顔だった。毎日酷い泣き方をしていたのだから当然だろう。目の下のクマが睡眠不足をしっかりと主張していた。ご飯を食べていなかったこともあってか体も見るからにやつれ限界の様相を呈していた。
いつか、こうやって一人のことを考えて泣いた夜があったのだと、その夜にも意味はちゃんとあったのだと言える日が来るのだろうか。来てくれるだろうか。時間が経てば、全部笑い話にできるだろうか。
それがいつになるかはまだわからないけどきっと必ず訪れる、その日まで歯を食いしばって耐えなければならないのだ。だから別にこれは悲しいことじゃない。苦しいのは今だけなのだ。そしてこの苦しみも無駄ではないのだ。
そう言い聞かせれば、全部丸ごと救われるだろうから。
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