第12話 眩
あの瞬きにも満たない短い時間の中で見た、ほんの一瞬の美しい煌めきを、私は一生忘れることはないだろう。
時計を買った。
腕時計をつける習慣がなかったので買わなかったのだがついに買った。この狭い部屋には元恋人に貰った五月蝿い目覚まし時計と、最近買ったその腕時計の二つがある。
どうせスマートフォン等の電子機器類で時間確認ができるから、という認識のもとで不必要なものだと思っていたが、スマートフォンとの決別にあたりこのような類のものも今後必要になってくるのだろうと思い至った次第である。
スマホのない生活。まだ実感はわかないが、近い未来に決行する予定だ。
パソコンはどうしても必要なため、やむなく手元に置いてはあるが、スマートフォンほど気軽に見るものでもないだろう。寝転がりながらパソコン操作はできないのだ。
この片手に収まる小さい画面に映し出される数々の事象に一喜一憂するくらいなら何も知らないままの方がずっとずっと幸福に違いない。何より、元々希薄になっていた人間関係を全部まとめて捨ておけるのが素晴らしい。過去を振り返らなくていい。もう何かや誰かに思い悩むこともしなくていい。
自由だ。不完全だが、自由を手にすることができる。
こざっぱりとした、晴れやかな気分だった。
執着ほどこの世で醜くおぞましい感情はないのだ。これは古来から仏教をはじめとした宗教でも口を酸っぱく言われてきたこと。人間は古来より本質的に変わっちゃいないという意味にもとれるが。
愛は醜い。愛は執着を内包する。好きの反対は無関心、とは昔からよく言われているものだがこれはそういう意味で正しい。
だからこれ以上何も好きになりたくなかった。
私は怪物になりたいわけじゃないのだから。
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