第10話 首
ついに食欲が完全に消えた。
元々一日一食と細々と食べ続けてはいたものの三日前の昼以来何にも食べる気にならなかった。肉やデザートや、元々の自分が好きだったものを食卓に並べてみたが、無駄とわかった今彼らは冷蔵庫に仕舞われている。何も食べないまま三日が経過した。いつか食べれるだろうか。この家には私しかいないのに。
食費が浮くだろうと楽観的に考えることにした。飲み物は飲めたので野菜ジュース等で栄養は摂れていると思い込むことにする。自己暗示とか思い込みとか、最近はそう言ったものに頼ることが多くなった。私の脳が案外騙されやすいみたいので、簡単に効いてしまうのだった。
自傷はしないと決めていた。それは過去の自分との約束だった。代わりに自分の手で首を絞めることが癖になっていた。もちろん自力なので限界はあるのだが、苦しいその瞬間だけは全部忘れられたのでよかった。何も考えたくなかった。苦しいのは今だけだと思えなかった。死にたいわけじゃないので本格的に自分を追い詰めるようなことはしてないが、この感覚にすら慣れてしまったら次はどうなるのか、それは自分でもわからない。
食欲不振、睡眠不足、情緒不安定、現実世界でうまくいかないことが重なり、本格的に日常生活が鬱に蝕まれてるのを幸いながら自覚することはできていた。認識はしていた。自己分析と客観視は昔から好きだった。自分の現状が荒んでいるのはわかっている。
行動力がないのは残念だ。こうやって自分の状況を言語化して束の間の平穏に身を置くことしかできない。助けてと声を上げることすらできなかった。鬱は、私のキャラクターには似合わない。
鬱は甘えだよ。かつて言われた言葉が今も私を緩やかに縛りつけている。
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