第4話 城
冷蔵庫の中はいつ見ても空っぽだった。最近は冷凍食品に頼り過ぎている。好き嫌いが多くなった。自分で食材を選べるようになったからだろう。食生活なんてものは生活に支障が生まれてから変えればいい。どのみち長生きするつもりは毛頭ないのだから。それなら好きなものだけ食べて死んだ方が幸せだろう。といっても、今食べているのは好きなものではなく調理が楽なものにはなってしまうのだが。料理は心に余裕がないとできない。それは家事全般がそうなのだろう。
人生に飽きた、と言うとあなたの歳ではまだまだこれからでしょうと人は笑うのかもしれないが実際生きることが難しかった。なんの不自由もないことに不自由を感じる。欲しいものはなんでも手に入るはずなのに何もかもが足りない。行き届いた生活の中で生きる意味を見出せないまま惰性だけで今日が暮れる。一日が終わる。夜がくる。目を閉じる。何事もない良き一日だった。そう締め括ることができればもうなんでもいい。
日本語が上手に話せない。どうやって人間と会話をしていたのだろう。会話能力はこうも簡単に落ちるものなのかと驚いた。そういえば最後に大笑いしたのはいつだろう。楽しかったこと、嬉しかったことが全く思い出せない。辛い記憶だけが蓄積される。言われて嫌だったこと、聞きたくなかったこと。忘れたいのに。
貴方は浮いている、と面と向かってはっきり言われてから人に心を開き過ぎないように接することに徹した。曝け出して嫌われるなら何もしないに限るのだ。それに気づくのに随分と時間はかかってしまったが。人に馴染むように、変だと思われないように、目立たないように、それだけを重視して、ようやく友達らしい友達ができるようになった。そうやって本心を隠すのが当たり前にできるようになって、上手に生きられている、と自惚れたわけでもないのだが、そこで初めて失敗をした。
取り返しのつかない失敗だった。
誰も助けてはくれなかった。
また一人になった。
いや、一人になるのは自分で選んだことなのだ。
そういうふうに言えることが、唯一の心の支えだった。
久しぶりにあの子の夢を見た。
フラッシュバックが今でも苦しい。どうやったら忘れられる。
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