首都高速道路

 首都高速道路は交通事故が多く、ドライバーにとっても運転しにくい道路だ。桜井はそんな危険な高速を、時速百三十キロで爆走する。前から後ろへと流れていく、東京の美しい街並み。しかし助手席に乗せられた佐野は、景色よりも自分の命を心配せざるを得なかった。

「見てみてー! あれ、スカイツリーだよー! ライトアップされて、すっごいきれいだねー!」

「あ、ああ……、そうだな……」

 桜井は目的地を目指して、ひたすらに車を走らせる。佐野は周囲の車を確認しながら、さっさと首都高を降りてほしいと願った。

「ねぇ佐野、お腹空いてない? 俺、ご飯持ってきたんだ」

「腹は、別に空いてないな……」

 ……あのような死体遺棄に加担させられて、腹など減るはずもない。佐野は疲れ切った顔で首を横に振ったが、ドライバーは全く聞く耳を持たなかった。

「え? お腹空いてるよね? だってもう、夜の七時だよ?」

「いや、別に――」

「空いてるでしょ? だからさ、神奈川に入ったら、一緒にご飯食べようね!」

 桜井は勝手に話しを進めると、横浜方面に進路を変え、やがて街中へと入った。デートスポットらしき夜景の美しい場所を見つけ、そこで車を停める。

「佐野ー、早く来てー! ここのベンチに座ろーよ!」

「……こんな、土砂降りの中でか?」

 昼間から天気は微妙だったが、二人が神奈川に入った瞬間、ついに空は水を落とし始めた。バケツをひっくり返したような、物凄い勢いの土砂降り。当然のことながら、周囲には誰もいない。それにも関わらず、桜井は佐野をベンチに座らせ、バッグからアルミホイルを取り出した。

「じゃじゃーん! 桜井特製、メンマパンだよ! 佐野、メンマ好きだったでしょ?」

「う、うぇ……」

 手渡された怪奇な食べ物を見て、佐野は思わず眉をひそめる。調理次第で美味しくなるはずのメンマが、パンに挟まれてびちゃびちゃになっていた。叩き付けるような雨も相まって、ご飯はさらにしなびていく。

「佐野のことを考えながら、一生懸命作ったんだぁ……! もちろん、食べてくれるよね?」

「くっ、そ……」

 ボソッと不満を漏らしそうになった彼は、寸でのところで悪態を呑み込む。桜井が人を殺しそうな目で、こちらをじっと睨んでいたのだ。

「ほらぁ、さっさと食べてよ。それともさぁ、今ここで殺されたいの?」

 桜井は厭らしい笑みを浮かべながら、佐野の腰に腕を回す。佐野は完全に寒気を覚え、諦めた顔つきでパンを齧った。……当然だが、吐き出したくなるほど不味かった。

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