北関東自動車道
「佐野ってさ、今何してるの? もしかして、ニートとか?」
「ちゃんと働いてるっつーの。まぁ給料は安いけど」
桜井の車は高速道路に乗り、北へ北へと上っていく。佐野は奢ってもらった缶コーヒーを飲みながら、じっと桜井の顔を見つめた。
「……てかさ、おまえ、大分雰囲気変わったよな。髪とか茶色くなってるし、カラコンとか入れてるし」
「これは茶色じゃなくて、カッパーブラウンって言うの!」
「かっぱ……? まぁとにかく、印象変わったのは確かだわ。彼女にでも影響されたか?」
……佐野が軽口を叩いた途端、桜井は急ハンドルを取る。そのあまりの粗暴さに、後ろからはクラクションが飛んできた。
「っぶねーな! 急にハンドル切るんじゃねぇよ!」
「……」
桜井は何も言わず、苛立たしげにハンドルを握る。その様子を見た佐野は、何かいけないことでも言ったかと、内心かなり不安になった。
「……そのー、なんか、悪かった」
「別に。佐野ってさ、昔からそうだもんね」
桜井の長いまつ毛が、彼の白い肌に影を落とす。それが異様に儚くて、佐野は思わずドキッとした。
「でもね、佐野のそういうところ、俺は結構好きだよ。幼馴染だから、慣れちゃったのかな」
「……そ、そうか」
……狭苦しい車内に、ギクシャクとした雰囲気が流れる。佐野は少し後ろ向いて、後続車に目をやろうとした。
「……ん?」
――ふと体勢を変えた彼は、何だかおかしな臭いがすることに気付いた。芳香剤の漂う空気に一瞬、血生臭さが混じったような気がしたのだ。
「なぁ、桜井。この車に、なんか積んでるのか?」
「え、何で?」
「いや、変なにおいがするんだよ。トランクの方から」
佐野がそう言うと、桜井は「そっか」と一言つぶやき、そのまま高速を降りた。彼の質問には何も答えないまま、近くの山道へと入っていく。
「おい、桜井。こんなところに入って、一体どうするんだよ」
「ちょっとね、山に用事があるの。佐野も手伝ってくれる?」
「は? 手伝うって、何を?」
車はおろか、人の気配すらしない山の中。桜井の車は次第に道をそれ、完全に木々に囲まれた場所で停車した。
「ちょっ、ちょっと待て! こんな場所で停まるのかよ!」
「うん、そうだよ」
焦る佐野とは対照的に、桜井はやたらと落ち着き払っている。彼はブランド物のバッグをゴソゴソと漁ると、くるりと佐野の方を向いた。
「ごめんね、佐野。ちょっとだけ、我慢してね」
「は――?」
――次の瞬間、佐野は痛烈な悲鳴をあげていた。桜井が振り上げたダガーナイフが、彼の右ももに刺さっていたのだ。
「あああっ……がぁっ……」
「あはははは、すっごい痛そう」
桜井は乾いた笑いを浮かべると、佐野の上ジャージを無理やり脱がせ、太ももを適当に止血する。座席が自分の血に染まっていくのを見て、佐野は思わず気が遠くなった。
「じゃあ、今から用事を済ませるから。ほら、早く降りて」
「だから用事って……、一体何なんだよ……」
苦痛の色を浮かべて尋ねる佐野を、桜井は呆れたように笑い飛ばした。先ほどまでとは打って変わって、ひどく冷たい声をしている。
「はぁ……。佐野ってさ、本当に鈍感だよね。この状況を見ても、まだ分かんないの?」
桜井は運転席を降り、トランクのドアを開けた。ズルズルと引っ張り出したのは、悪臭を放つ真っ白なゴミ袋と、土農用のシャベル。ご丁寧に、袋も二つ、シャベルも二本だ。
「今から、死体を埋めるから。佐野も手伝って」
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