その人は、ぷにぷりを五人前買った。

 自由行動の次の日。


 「ミネーヴァさまのところに、報告にいこうか」


 と、ユウが言った。


 「ハーデースさまと会った時の様子を、お伝えしないとね」

 「うん、行く行く! 神酒茶ネクターティー!」


 とジーナが喜ぶ。


 「ミネーヴァさまは、いつも、ちょくせつ、ぼくらから話を聞きたがるからねえ」


 ということで、わたしたちはまた、そろって、大聖堂に出かけたのだった。

 大聖堂への大路を歩きながら、


 「そろそろ、来てもらった方がいいかな。呼んでおかないと、怒るだろうな……」


 歩きながら、ユウがなにかつぶやいている。


 「あっ、プニプリ屋が出てる!」


 ジーナが叫んだ。


 「ユウさん、あそこ寄って! いますぐ寄って!」


 大声でさわぐ。

 子どもである。

 でも、しかたなくジーナについていったプニプリ屋で


 「うわっ、これは美味しい」

 「すごい! 口の中がジュワジュワッと!」


 試食したプニプリに、わたしたちは歓声をあげることになった。


 「せっかくだから、ミネーヴァさまにもあげよう。手土産だよ。いや、神様だから、お供え?」


 ユウが提案し、神さまがものを食べるのかどうか、そこはよくわからないが、けっきょく買っていくことに。


 「四人前、いや、五人前ください」

 「アリアッシター!」


 五人前買ったけど、それは、おいしいから余分にあった方がいいということだと、わたしもジーナも思っていたのだ。




 「いらっしゃい、ユウ!」


 と、大聖堂の敷地にはいるやいなや、女の子の姿をしたミネーヴァさまが駆けてきた。


 「みんな、いろいろ、がんばってくれたようね。さあ、早く行きましょう」


 ミネーヴァさまは例によって、ユウの腕にぶらさがる。


 「まあ、こんなふうにぶら下がれるのも、いまのうちだから」

 「「?」」


 わたしたちは、なんのことかわからない。

 いつものように、ミネーヴァさまの秘密の庭に入れてもらった。

 そこでは、いつものように、白い花が咲き、おだやかな風がながれる。

 テーブルが、いつものように、ある。

 時間がとまったような、そこは永遠の庭なのだ。


 「えっ?」


 わたしとジーナは、驚いた。

 目の前のミネーヴァさまが、いつの間にか女の子のすがたをやめて、本来の臈長ろうたけた女神さまのすがたにもどっていたからだ。大人のミネーヴァさまには、内側から光輝くような、まさに神の美しさがあふれていた。


 ミネーヴァさまは言った。


 「いいわよ、ユウ、来てもらっても」

 「はい、では……」


 ユウが答える。

 そして、わたしたちの目の前、ミネーヴァさまの庭の、芝の地面に光の線が走り、黄色と緑の光を放つ魔法陣が描かれた。

 転移魔法陣である。

 この世界で、数人しか使えない転移魔法が発動する。

 その魔法陣の上に、虹色の光とともに現れたすらりとした姿は


 「「ルシア先生!」」


 頭にはティアラ、赤い「麗しの雷の女帝」の盛装を身にまとい、フレイルを片手に、ルシア先生が転移してきたのだった。

 ルシア先生は、魔方陣から踏み出すと、片膝をつき、ミネーヴァさまに深くおじぎをした。


 「おひさしゅうございます、ミネーヴァさま」


 ミネーヴァさまは、ルシア先生に、やさしく笑った。


 「よかったわね、ルシア……あなたが、魔力を失い、傷を負ったまま、この地をはなれてしまって、わたしはずいぶん心配しましたよ」

 「もうしわけありませんでした。多くのものを失って、いろいろ、考え直してみたくて……」

 「でも、ほんとうによかった。こうして、もとどおりのルシアにまた会えたから」


 といいながら、ユウをちらりとみて


 「まあ、まったくすべてが、昔のままというわけでもないけれど……」


 そういって、微笑んだ。


 「なにしろ、昔のあなたは、もっと、こう……」

 「おやめください、ミネーヴァさま」


 ルシア先生は顔を赤らめた。

 ふふっと笑ったミネーヴァさまは、


 「さあ、まずはお茶にしましょうか」


 そういって、わたしたちに、テーブルに着くように勧める。


 「お茶うけに、プニプリを買ってきましたが、ミネーヴァさまもお食べになりますか?」


 とユウが言う。


 「まあ、プニプリ! シンドゥーの食べ物ね! 一度食べてみたかったのよ!」


 手をたたいて、よろこぶミネーヴァさまは、また子どもの姿に戻っているのだった。

 わたしたち四人と、ミネーヴァさまは、神酒茶をいただきながら、プニプリに舌鼓をうつ。

 そうか、あのときユウが五人前買ったのは、こういうことだったんだね。

 いまさらのように気づくのだった。

 一息ついて、ユウの口から、ハーデースさまとの対話の模様が語られた。

 いきさつをきくミネーヴァさまの顔を、さまざまな表情がよぎる。


 「そうして、ぼくたちは、禍つ神の座を離れ、王都に戻ってきたのです……」

 「そう……あの子には、そんなことがあったのね」


 ミネーヴァさまは、ふうっと息をついて、遠くに視線を向けた。


 「あの子は……アーテミスは、今、月で、凍りついているのね」

 「そのようです」

 「でも」


 と、ミネーヴァさまは、ユウを見つめて


 「少なくとも、あの子は無事だわ。消滅せずにすんでいる。まあ、ハーデースの呪いのおかげではあるんだけど」

 「はい、不幸中の幸いです」

 「そして、あなたが……あなたたちが、あの子を連れ戻してくれるのね」

 「最善を尽くします。かならず、また、アーテミスさまを、ミネーヴァさまの庭に」


 と、ユウは答え、わたしたちも深くうなずくのだった。


 「そしたら、こんどは、プニプリは六人前だね!」


 ジーナがそう言って、みんなは笑ったのだ。

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