わたしたちは、旅の支度の買い物をする。
ともあれ、シュバルツさんの強力(強引)な推薦により、「暁の刃」も護衛団に加わることになった。
これで、冒険者による護衛は、「月下の黒豹」五人、「夜明けの誓い」六人、わたしたち「雷の女帝のしもべ」三人、そして「暁の刃」四人、総勢十八人となった。
キャラバンは、荷物専用の幌馬車六台と、主に人(商人とその従者、および途中からキャラバンに同行している、例の神官見習いアーダ)を運ぶ馬車二台からなっている。
かなりの大部隊である。
旅の間の、冒険者の配置と役割分担も決まり、打ち合わせは解散となった。
「それでは、旅支度の、買い物をしていこうよ」
とユウが言って、市場の方角に歩き出した。
王都まで、順調にいって十日ほどの行程である。
わたしとジーナは、どうしても必要なものを厳選して買おうとするが、ユウはかまわず、
「あ、これもあったほうがいいな……あれもいるかな?」
目についたものを、どんどん買っていくのだった。
そのうちに、食材まで買いこみはじめた。
「えっ? そんなのも買うの? 食べ物なんかは、シュバルツさんが準備してくれるっていってたよ」
「うん、まあ、それにちょっとおまけしたくてね」
「ユウさん、ちょっとおまけって、そんな量じゃないよ。なんでザザ芋、山のように何袋も買いこんでるの? あっ、サマネギもそんなにいっぱい買っちゃって……おかしいって」
「ライラ、心配ないよ、ユウには、例の重さを軽くする技があるじゃん」
「ジーナ、いくら軽くなっても、かさばったらたいへんでしょう。あんたが、ずっとまえの草豚みたいに、旅の間、ひっぱっていくっていうの?」
「そっか……あれはもういいや。あんなのひっぱって王都に入るのはねえ、かっこ悪いよね」
ユウは笑っている。
「だいじょうぶだよ、かさばらないようにできるんだ」
「? わからないなあ?」
買い物は続き、けっきょく、また、ジーナが大荷物をふわふわひっぱって、人々の注目を集めながら、孤児院に帰ったのだ。
「さて、それでは調理だ」
孤児院に帰ると、ユウははりきって、買いこんだ食材で料理をはじめてしまった。
「にんじん、玉ねぎ、じゃがいも~」
歌うのは、例の歌である。
「ジンジン、サマネギ、ザザ芋~」
子どもたちも合唱する。
つまり、ユウはかれえを作っているのだ。
それも、大鍋をいくつも使って、大量につくりはじめた。
「いったい、何食分つくるつもりなの!」
わたしは、あきれてみていた。
大鍋六つぶんのかれえを作るのに、まるまる一日かかった。
「さあて、これを……」
といって、ユウは、ちいさな袋をとりだした。口を紐で閉じられる、革の袋である。
「なに、それ?」
ジーナが聞く。
「うーん、いんふぃにてぃ・ぼっくすとでもいうか……いや、袋だから、正確には、いんふぃにてぃ・ばっぐだな……」
またよくわからなことをいいながら、
「よいしょ」
力をつかって、大鍋をふわりともちあげ、できたばかりの、熱いままのかれえを、その袋にどぼどぼと注ぎこんでいく。
あの……。
ちょっと待って。
いや、これって、どう考えても、おかしいでしょ。
ユウが取り出したのは、手のひらくらいの大きさしかない、小さな袋で。
そのなかに、なん十食ぶんもあるような大量のかれえが、どんどん入っていく。
あふれる気配もなく、小さな袋がかれえを呑み込んでいく。
とうとう、五つある大鍋のかれえは全部、袋に入ってしまった。
「あとの一つは、晩ご飯にしようね」
袋の口紐をきゅっと縛りながら、ユウがそういうと、子どもたちは大喜びだ。
「やったあ!」
ジーナまで単純に喜んでいる。
ジーナ、あんた、よろこんでる場合じゃないって。
また、ユウがおかしなことをしてるんだよ。
いったい、どうなってるの、これ?
「まあ、これは魔法で言ったら、収納魔法ということになるのだけど……」
と、ニコニコしながら横でそれをみていた、ルシア先生が言った。
「しゅ、収納魔法?!」
それは、とてもとても値打ちものの、ハイレベル魔法である。
袋や箱に、この収納魔法を付与することで、本来の容量をはるかに超えたものを格納することができるようになるのだが、たいへん難しい技術であるため、使い手は非常に希少だ。この魔法を付与できる魔法使いは、ただそれだけで一生食べていけるほどだ。
しかし収納魔法といっても限度がある。たいていは、本来の容量の数倍程度が限界だ。十倍も入ったら、超上級の魔力といえるだろう。
「うーん、収納魔法としても、この容量はとんでもないわね……。ユウ、あなたのことだから、これって、まだまだ入るんでしょう?」
問いかけるルシア先生に、ユウがうなずく。
「たぶん、上限はないね」
「ええっ上限がない?!」
そんなばかな。
わたしはあぜんとした。
「魔法ではなくて、別の静止空間に配置しているだけだから。空間は無限だからねえ」
またユウがさらりと言う。
むちゃくちゃだ。
こんなことができるって、商人のひとたちが知ったら、みんなおかしくなっちゃうよ。
「ジーナ……」
わたしは、ジーナに念押しした。
「ぜったい、これ、みんなにしゃべっちゃだめよ!」
「えー? なんで? 自慢できるじゃん」
「だめだったら、だめなの!」
「そう……?」
ジーナは、なっとくがいかない様子だったが、もし、これがばれたら、間違いなく、たいへんなことになるから。
「それからと……」
そのあとも、ユウは、ルシア先生に持ってきてもらった、子ども用の肩掛けかばんに、力をはたらかせて、旅の用具をどんどん詰めていく。わたしたちの着替えやらなにやら、どこまでも入ってしまう。大きさも、長さ、重さも関係なしだ。ぜんぶ、スルスルと収納してしまった。
「はい、できあがり」
一切合切が入ったそのかばんを肩にかけてみたが、まったく重さを感じない。
まるで、何も入っていないかのようだ。
「うん、入れたものは、本当はこのかばんの中にはないからね。かばんはただの扉でしかないから。実質、何にも入ってないと同じだよ。軽くていいでしょ」
いや、それはそうなんですけど……。
ユウの力をみると、いつも、なんだか釈然としないものが残るのだった。
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