エピローグ 「雷の女帝のしもべ」たち

 おれたちは、今売り出し中の冒険者パーティ「暁の刃」だ。

 リーダーである剣士の俺アーネスト、槍術士のヌーナン、盾使いのパルノフ、そして魔法使いのエミリアの四人からなるパーティだ。

 全員、同じ村で育った幼なじみだ。

 おれたちには、夢がある。

 冒険者として活躍して、いつかは都にも上がり、そして「暁の刃」の名を、この国にとどろかすのだ。裕福になったら、まあ、少しでも村に寄付して、おれたちの村の生活をもっと良くしたいという望みもある。

 そのために、日々、がんばっているのだが、道は遠い。

 魔物は強い。

 かけだしのおれたちでは、正直いって、まだまだ、力が及ばないことが多い。

 今も、ダンジョンでたいへんなことになっている。


 「ひぃいいいいい!」


 エミリアの悲鳴。

 エミリアは、銀色の糸でぐるぐる巻きにされ、ダンジョンの天井から吊り下げられていた。


 「エミリア! 今、助ける!」


 おれたちは、エミリアのもとに駆け寄る。

 ダンジョンに、冒険者を狙う盗賊が出る、その盗賊を捕まえてほしいという依頼をギルドでみつけて、さっそく、ダンジョンに突入したおれたち。

 しかし、盗賊など影も形もなく、あきらめて帰ろうとしたその時、いきなりエミリアのからだが銀の糸に包まれて、自由を奪われ、天井まではねあげられた。

 なにものかの罠にかかってしまったのだ。

 おれたちがエミリアのもとに近寄ると、ダンジョンの奥、いくつも突き出した、ごつごつした石筍のかげから、もぞりと、巨大な影があらわれた。


 「うわぁ、で、出た!」


 八本の足をもぞもぞと動かす、家ほどもある蜘蛛のからだに、人間の上半身、それも長い髪をふりみだした裸の女のからだが、上下逆に生えている。

 さかさまの女の顔が、にたりと笑った。


 「アラクネの女王だぁ!」


 まずい、まずすぎる。

 深い階層の、フロアボスレベルの怪物である。

 どうして、おれたちがダンジョンに入ると、こんな、レベル外れの怪物ばかり出てくるのか?

 おかしいじゃないか。

 こんな化け物相手に、かけだしのおれたちになにができる。

 でも、なんとしても、エミリアを助けなければ。

 おれたちは、「暁の刃」は、ひとりでも欠けたら、だめなんだ。

 行くしかない!

 おれたちが、勇気をふりしぼって、アラクネに突撃しようとしたとき


 「また、あんたたちじゃん……」


 うしろで、聞きなれた声がした。

 振りかえると、おれたちを見ている、四人の冒険者。

 フレイルを手にした美しい銀髪のエルフ、あれは「麗しき雷の女帝」、伝説の大魔導師ルシア・ザイクさま。

 その横に立つ、茫洋とした神秘的な少年は、アンバランサー・ユウ。

 今、声を上げたのは魔剣を構えた獣人少女ジーナ。

 そして、もうひとり、ローブを身にまとい杖をもつのは、ルシア様の後継者、魔法使いのライラ。

 世界の危機を救ったと、今、ちまたでうわさの中心となっている、スーパーパーティ「雷の女帝のしもべ」だ。


 「盗賊を退治にきてみれば……、あんたらって、つくづく……」


 ジーナさんが言う。


 「た、助けて!」

 「エミリアが捕まった!」

 「なんで、この階層にこんな化け物が出るんだよぉ……」


 「あんたたち、どういう運の持ち主なのか、ほんとうに感心するねえ」


 とライラ。


 「いや、そんなことはいいから、とにかく助けて!」


 「しかたないわね、ジーナ、ライラ、やっちゃいなさい!」


 ルシアさまが、凛とした声でいい、


 「はいっ!」


 獣人少女が魔剣イリニスティスを構えて、高く跳躍する!

 その刀は、エミリアを拘束している銀の糸をすぱりと切断。


 「ああーっ」


 落下するエミリアに、アンバランサーが手をつきだし、エミリアのからだは空中を移動して、おれたちの前にそっと下ろされる。


 「あたしはねえ、もう、蜘蛛にはさんざんつきあわされて、慣れてるのよ。アラクネごとき、なんでもないわよ。

  神々の怒りよ天降あもり来たれ、地獄の雷撃サンダーボルト

  雷撃よ、行けっ!」


 魔法使いライラさんの放つ、青紫の魔法の雷が、大音声とともに大気を引き裂き、一発でアラクネを黒焦げにする!


 「よし!」


 結果をみとどけ、満足げにフレイルを立てる、大魔導師ルシアさま。

 その横で、静かにほほえむ、アンバランサー。


 ――「雷の女帝のしもべ」か……。


 おれは、その姿を目に焼き付けた。

 なんだか、胸があつくなる。

 がんばれば、いつかはおれたちも、こんなパーティになれるだろうか?



 <アンバランサー・ユウ 第一編「エルフの禁呪」 完>

 

  第二編「星の船」に続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る