<世界を見下ろす座における、『司るもの』とアンバランサー・ユウの対話>

 「ここは……」


 気づくとわたしは、召命をうけた、あの始まりの空間にいるのだった。

 わたしの下には、世界の渦がぐるぐると流れている。


 「ということは……わたしは、死んだのか?」


 今、ここにいるわたしに、肉体はなかった。

 わたし自身が、この空間に浮かぶ、銀河のような一つの複雑な渦だった。


 「アンバランサー、君はよくやった」


 どこからか、『世界を司るもの』の声がした。

 『司るもの』の視線が、わたしを見、そして下方の、世界の渦を見るのを感じた。


 「ああ、今の君の渦は、ずいぶん、この世界の渦と似てきたな……

  それとも、この世界の渦が、君に似てきたというべきなのか……」


 わたしは、わらった。


 「世界の渦が、わたしに似てきたって? それはまた、たいそうな話だ……」

 「渦とはそういうものだよ。相互作用だからな。ところで、アンバランサー」


 『司るもの』が、わたしに尋ねた。


 「君は、これから、どうしたいだろうか?」

 「選べるのか? 例えば、わたしが、自分の生まれた、あの世界に帰りたいと言ったら?」

 「それは、可能だ。ただ、あの世界にはもう、本来の君の存在はない。戻れば、篠崎裕一郎ではなく、また別個の、新しい存在として、生まれかわることになるだろう。だが、君は……そうしたいのか?」


  わたしは……。


 アンバランサーとして、この世界に来てからのことが頭を巡る。

 ずいぶん、わたしの本来の世界とはちがっている、この世界。

 ほんのわずか暮らしただけで、もう、わたしの渦と重なり合って、相互に影響を与え合っている、この魔法の世界。

 ルシアや、ライラや、ジーナや…新しく知りあった人たちの生きる、この魔法と剣の世界。


 篠崎裕一郎として生きた、本来のわたしの世界にも、たしかにわたしの大切なものは多くある。

 そのさまざまなことを、なつかしく思い出す。


 しかし、それでも。

 いうまでもない。

 わたしの選択は、最初から決まっているのだ。

 あの瞬間から。

 それはけして、この先も揺らがないだろう。


 「よくわかった……君の意思を尊重するよ、アンバランサー・ユウ」


 『司るもの』が言い、そして遠ざかる。


 「ユウ! ユウ!」


 それといれかわるように、わたしを呼ぶ、ルシアの声が聞こえてくる。

 かけがえのない、その声が……。

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