「しもべ」が四人になり、その人はダンジョンに突入する。
それからも、ルシア先生は、なんどかサバンさんを呼びつけて留守番をさせ、わたしたちをダンジョンに連れて行きました。
あいかわらずの、ルシア先生のめちゃくちゃ指導で、わたしたちはあっというまにダンジョンの第九層まで到達。そこにいくまで、それはもういろいろなことがあり、わたしたちは何度も嘔吐し、それはそれはたいへんだったのですが、ここでは省略します。(まあ、いつか、お話しする機会があるかもしれませんが)
それより、たいへんなことがおきてしまったのです。
「さーて、今日はいよいよ十階層いくわよ! サバン、遅いわね」
例によって、ルシア先生がギルドに事告げ鳥を送り、サバンさんが留守番をしに来るのを待ち受けていると(しかし、こうやって向こうの都合も考えず、問答無用で呼びつけるやり方もどうかと思う。まあ、迷惑をかけられているわりには、サバンさんが呼びつけられてうれしそうなのも、なんだかおかしいけど)
「ルシア様ー、ユウさんー」
その日、そう叫んでやってきたのは、いつものサバンさんではなく、アリシアさんだったのだ。
よほど急いで来たのだろう、汗だくで、息を切らせている。
「あっ、ユウさん、こんにちは!!」
「そうじゃなくて、アリシアさん。サバンはどうしたのかしら?」
ルシア先生が聞くと、
「そうだった! ルシア様たいへんです。ダンジョンに異変がおこりました!」
「異変?」
「はい、中に潜っていた冒険者の話だと、どうもダンジョンの階層が乱れているとのことです」
「階層の乱れですか……」
「はい、三層を歩いているうちに、いつのまにかもっと下の層に迷い込んでいたり、逆に下の層にいたはずが、階段をのぼった覚えはないのに一層にいてコボルドと遭遇したりと、次々に報告がきています」
「それはかなりの異常事態……堅牢なはずのダンジョンが不安定になっている」
「そうです、ひょっとしたら、ダンジョンを成立させている呪力全体が乱れていて、このままでは最悪、ダンジョンが崩壊するかもと……」
「「えーっ?」」
わたしとジーナは驚いていった。
「そんなこと、あるんですか?」
「まあ、ダンジョンコアが破壊されればダンジョンは崩壊するけれど……」
ルシア先生が、考え込んだ。
「今回の現象はそれとも少し、違うような……」
「副ギルドマスターは、今、ダンジョンに詰めています。
場合によっては、もう上の調査隊なんか待たずに、自分たちだけで突入しないといけないかもしれないということで、それで、ルシア様たちにもすぐ来てほしいそうです!」
「わかりました。かなり、たいへんな事態ね。わたしたちは転移魔法ですぐに向かいます。
あなたは、ここの留守番をしてね」
アリシアさんに言い、わたしたちはルシア先生の部屋に。
「ダンジョンが崩壊すると、どうなるんですか? 魔物が地上にあふれるんですか?」
わたしは心配になって聞いた。
「そういうことは、たぶんないわ。たぶん、ダンジョンの崩壊とともに、魔物の大部分も消滅すると思うわ」
「そうなんだ……じゃあ、安心ですね」
「でも、いちぶの強力な魔物が生き残って、地上に現れる可能性があるにはあるのよ。
それから、問題は、ダンジョンが崩壊するとき、なかに取り残されてしまった冒険者がいたら……」
「どうなっちゃうんですか」
「まず、助からないわね。ものすごい時空の乱れと、呪力の奔流がおきて、そこを人間が生き延びるためには、おそらく四大精霊クラスの魔力が必要だから……」
「うーん、これはやっぱり、レイスがあの穴をあけたことと関係があるんだろうか?」
とユウ。
「わからないわね……そういうことだったら、まだいいけれど……」
ルシア先生は、眉をひそめ、つぶやいた。
「まだ、いいけれど?」
聞き返すわたしたちには答えず、ルシア先生は決然とした顔で言った。
「行きましょう、ダンジョンへ」
そして、詠唱する。
「土と風の精霊の舞踏により異なる光と影が成約する、転移!」
ルシア先生の転移魔法が発動する!
転移は一瞬である。
ダンジョン前に到着し、振りかえると、例によってルシア先生はユウと、しっかり手をつないでいる。
「だから、こうしないとユウさんは、体質のせいで魔法の効力にはいらないの。他意はありません!」
どうも、それ、疑わしいんだけどなあ……。なんか手のつなぎ方もへんなんだよなあ。
「ルシア様!」
サバンさんが駆けてきた。
サバンさんは、戦斧を担ぎ、兜もつけて、狂戦士の完全武装だ。みずから突入する気満々である。
「サバン、状況は?」
ルシア先生が冷静に問いただす。
「ダンジョンはますます不安定です。このままでは崩壊する可能性が高いです」
「冒険者は避難したの?」
「それが……」
「いるのね?」
「はい、管理人の話では、まだ、二つのパーティが戻ってきていません」
「それはまずいわね……」
「階層も乱れていますし、中で迷っている可能性があります。一刻も早く、連れ出さないと……」
「どんなパーティかわかる?」
「はい、一つは四人組の……」
「「まさか、またあの連中?」」
わたしとジーナは思わず言った。
サバンさんは苦笑いだ。
「そうだ。あいつらだよ……」
「「なんというか……間が悪いというか……」」
「あいつら、冒険者やめた方がいいんじゃないかなあ」
とサバンさん。
「もう一組は?」
と、こういう場面ではあくまで冷静なルシア先生。
「それが……、この辺りではあまり見かけない連中で……たぶん南の方の出だと思うんですが」
「「それって」」
「報告によれば、屈強そうな黒人の戦士三人と、おそらく魔法使いでしょう、一人の老婆、あと黒い犬のような生き物、たぶんそれは老婆の使い魔の、魔獣ですね。彼らが身にまとう衣服も、原色が使われ、意匠も明らかに南のものとのことです」
「ねえ、ユウ、これってあのひとじゃないの?!」
「たぶん、そうだろうな……。今、このあたりに、南の人はそうそういないだろうしね」
「「助けなきゃ!」」
わたしとジーナは叫んだ。
正直、四人組はしかたないとしても、あのおばあさんだけは何としても助けなきゃ、そう思ったのだった。
「かれーとぷりんの恩があるしね!」
ジーナが言う。
「かれえ? ぷりん? なんだそりゃ?」
サバンさんが不思議そうな顔をした。
「では、急ぎましょうか」
ルシア先生が言う。
「サバン、あなたと、わたし、そして『雷の女帝のしもべ』でダンジョンに入りましょう」
「「「はいっ!」」」
ダンジョンの奥からは、不気味な鳴動が感じられる。
明らかに、中では異常が起きているのだ。
「この状況で、大人数で入っても、被害を大きくするだけだろうしね。ぼくらでがんばるしかないね」
とユウが言った。
先頭がジーナ、後ろにサバンさん、そしてわたし、ルシア先生、ユウという順に階段を降りていく。
「あの……」
サバンさんが、ふりかえり、ルシア先生におずおずと言った。
「あの、今回に限り、でいいんですが、俺も、あの、もしルシア様がよろしければ、その、もしルシア様のご許可がいただければ、つまり……」
「なあに、サバン? はっきり言いなさい」
サバンさんは直立不動の姿勢で叫んだ。
「あのっ! おれも栄光あるルシア様の、『雷の女帝のしもべ』の一員としてっ……!!」
「あら、そんなこと? いいわよ。ねえ、みんな?」
ルシア先生はあっさり言った。
「では、今回はサバンもパーティのメンバーということで、行きましょう。つまり、しもべは四人ということね」
「おおう、やったっ!!」
サバンさんがガッツポーズをして、なんだかたいへんうれしそうだ。
「俺も、ついにルシア様のしもべ……ぐふふふ」
うれしそうだし、狂戦士は戦力的には申し分ないし、すごく頼もしくていいんだけど……サバンさん、そういう人だったんですね……。
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