その人と、わたしとジーナがパーティを結成する。
「ルシアさま、ご無事でしたかぁー」
サバンさんが、部下をつれて、息せきって駆けつけてきた。
朝が来て、ルシア先生が冒険者ギルドに連絡を取ったのだ。
魔法の力をとりもどした先生は、事告げ鳥の魔法を使い、ギルドまで事情を伝えた。
<孤児院ニ「牙」残党シュウライスルモ、撃退。全員ブジ、孤児院マデコラレタシ。るしあ>
サバンさんは、ギルドのホールを飛び回り大声で告げる、六枚羽の事告げ鳥の知らせを聞いて、とるものもとりあえず、駆けつけてきたのだった。
「はぁっ? ルシアさま?」
孤児院の前までやってきたサバンさんは、驚きの声をあげた。
「サバン、呼びつけて悪かったわね」
そう声をかけてきたルシア先生が、ユウとともに、登るための手がかりなど何一つない、孤児院の建物の、斜めの屋根に、すっと立っていたからだ。
「前から、この部分の雨漏りが気になっていたものだから。
ユウさんに手伝ってもらって、ちょっとついでに調べていたのよ。
いま、降りるわ」
そういって、ルシア先生は、事もなげに、高い屋根から飛び降りた。
ふわりと、ルシア先生の長い銀の髪と、青い衣がひるがえり、その均整の取れた長身が、軽々とサバンさんの前に着地する。ユウもそれに従って、ふわっと降りた。
「ルシア様、そのおみ足は……?」
「ふふふ……治っちゃったの」
ルシア先生は、わたしを見て、にこりと笑った。
「正確にいうと、ライラが魔法を使ってくれたのよ」
「ええっ、そんなことが……?!」
サバンさんが、驚きの顔でわたしをみる。
いやいやいや。
わたしは、手をふって打ち消した。
「ルシア先生、サバンさんに、ちゃんとはじめから説明してあげてくださいよ。誤解されます」
確かに、わたしは、ルシア先生の足に治癒魔法をかけました。
でも、それは、ルシア先生の指導のもと、ただ言われるままにやっただけで。わたし一人でできるわけもなく、これをわたしが魔法で治したというのは、詐欺のようなものだ。
しかし、ルシア先生は、わたしの抗議にとりあわない。
「でも、この足がライラの魔法でなおったのは事実だもの」
「うーん……」
サバンさんがうなった。
「とにかく、ルシア様の、そのおみ足が治った、ということ。俺のところにルシア様の事告げ鳥がやってきた、ということ。つまり……」
ルシア先生を、ひたと見て、
「ついに……ついに呪いが解けた、ということなのですね。150年間、ルシア様を苦しめていた、あの忌まわしい呪いが……!」
そういったサバンさんの目には、涙が光っていた。
「よかった、ルシアさま、ほんとうによかった……」
ごつい手で、ぐいっと涙をぬぐった。
いかつい元狂戦士だけど、いい人なのだ。
「ありがとう、サバン……」
わたしはサバンさんが一貫して、ルシア先生のことを「ルシア様」と呼び、敬語をつかって話していることに、あらためて気がついた。ルシア先生はそして、いかついサバンさんを、ふつうに呼び捨てだ。
「ルシア様、魔法が使えるのですね、前のように」
「そう、昨日はひさしぶりに、雷魔法をちょっとだけ使ってみたわ」
サバンさんは、ルシア先生の言葉をきいて、ぶるっと体を震わせた。
「
「「「うるわしきイカヅチのじょてい?」」」
わたしとジーナ、ユウは驚いて、サバンさんの言葉をくりかえした。
ルシア先生は顔を赤くして、
「その呼び名はやめて」
あわててさえぎった。
「麗しき雷の女帝って……」
わたしたちのつぶやきに、サバンさんは嬉しそうに熱く語った。
「知らないのか? ルシア様は、俺たち冒険者の間では伝説の大魔導師なんだぞ。
大地を丸ごと焦土にしてしまう、その情け容赦ない雷魔法の攻撃力から、いつしか『麗しき雷の女帝』と呼ばれて、敵はその名を聞くだけで震え上がって逃げ出したそうだ。
それに、壊滅し累々と倒れた魔物の大軍を前にして、杖を片手に、仁王立ちで睥睨するその美しく冷たい視線に、魂をうばわれて、自分も雷撃を受けてみたいと思ってしまった冒険者も多いというぞ。
うん、まさに『麗しき雷の女帝』だな!」
「だから、その呼び名はやめなさい」
身悶えして、恥ずかしがるルシア先生。
「ルシアさん……じょていなんだ……」
つぶやくユウ。
「ユウさん?」
ルシア先生は、ユウに向き直り、真面目な顔で
「いいですか? じょてい、ちがいますからね?」
なぜか、そこにこだわるルシア先生だった。
わたしたちは、サバンさんに、昨日の夜の経緯を説明した。
ずたぼろになった「牙」の残党二人は、動くこともできず、板に載せてギルドまで連行していく、いや、正確には、荷物のように運んでいくことになった。
準備を整え、出発しようとするサバンさんに、ルシア先生が言った。
「そうそう、サバン」
「はい、ルシア様」
「わたしは、ライラとジーナを冒険者として独り立ちさせようと思っているの。
そのために、これから、ユウさんとこの二人で、パーティを組んで、経験を積ませようと考えています」
「仰せのままに、ルシア様」
サバンさんは深く礼をした。
「「え?」」
わたしとジーナは顔を見合わせた。
「「そうなの?」」
ユウは、ルシア先生の提案を聞いても、特に驚くでもなく、いつものようにニコニコしている。
なんだか、ユウとルシア先生のあいだには、昨日の夜の会話から、なにか以心伝心のようなものがあって、じつのところ、わたしはちょっと、わけもなく嫉妬してしまうような、そんな感じもあるのだけれど……。
「やったあ!」
ジーナは単純に、ことの成り行きに喜んでいるようなのだが。
わたしも、決して嫌なはずはなく、むしろ嬉しくてワクワクするんだけど。でもなんだかなあ、ちょっとだけね、モヤモヤってね。しょうがないよね。女の子だからね。
サバンさんは、ニヤリとし、胸を叩いた。
「任せてください。なにしろ、『麗しき雷の女帝』ルシア様のお言葉ですから。ギルドは全力で協力させていただきますよ。いやー、これは楽しみだ。あの女帝が直弟子を養成するとは……」
「だから、
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