第5話 異能力者
いつ戦闘が起きても対応できるように警戒していると、背後から突然尋ねられた。
「あんたが
動揺を声に出さないように、冷静に返答をしながら周囲を盗み見ると後ろに男性が二人、前に男性が三人と囲まれていた。
「そうだとしたら何ですか?あなた方には関係ありません」
完全に自分の情報が知られていることを察して、少女は相手の出方を伺う。
さすがの少女といえどこの距離で異能力者複数人相手では少々分が悪い。
様子を見ているとイラついた様子で敵の一人が口を開いた。
「それが、関係あるんだよな。お前に暴れられると俺たちにも迷惑がかかるんだよ」
睨みながらそう言われ、まさに一触即発の状態に少女は剣に手をかける。
少女のその動きを見て正面の二人も構えた時、静寂を切り裂く乾いた破裂音が響いた。
「お前らちょっと落ち着け。悪いな紅、こいつら気が短いんだ」
構えなかった一人が手を叩いて周囲の仲間に構えを解かせた。
「自己紹介が遅れたな。俺の名前はガイ・アルバントだ。能力者組織フクロウのリーダーだ」
「驚きました。まさか自分から名乗り出てくるとは思いませんでしたので」
少女が自分を狙っていることは分かっているはずだが、そのうえで自分がリーダーだと伝えてくるのは、嘘をついている可能性が高い。
少女は審議を見極めようと会話を続けた。
「あなたがリーダーという証拠はありますか?」
「うーん、証拠ねぇ。そうだ、こいつらが俺を守ろうとしているっていうのじゃダメかな?」
「駄目ですね。私にはこれが演技であるかどうかわかりません」
だが、高確率でこの男が守られているのは確かだろう。
表情や行動などは隠せたとしても、無意識に行う仕草や目線などは嘘をつくことができない。
囲まれてから常に観察していたが、ここにいる人たちは皆アルバントを守ろうと動いていた。
だからと言ってアルバントがリーダーであるという理由にはならない。
「それなら残念だが、証拠は提示できないな」
「そうですか、それは残念です」
少女は考えるのは得意ではなかった。
幼いころから組織によって命令を聞くだけの人形で、思考をする必要も自由も少女にはなかった。
だから迷って時は命令に沿うだけ。
「私の今回の命令は、目撃者を全員殺すことです。なので、リーダーが誰かは正直私にはどうでもいいですけどね」
リーダーかどうかは少女にはどうでもよかったが、仮に言っていることが真実だった場合ボスの命令をこなせると考えた少女は、言い終わる前に剣を抜いてアルバントに切りかかる。
「それが君の選択か。……やれ」
だが、少女の剣はアルバントへ届く前に見えない壁にぶつかって弾かれてしまった。
少女が動揺して生まれたその隙を逃さず、アルバントの右にいた大男が少女の横腹を思いっきり殴りつけた。
「んっ……」
小さな少女の身体は呻きながら宙を舞い、木にぶつかる衝撃に備えようとしたがその前に見えない壁に激突した。
受け身もろくに取れずに地面に落ちてしまい、そこを再び大男に狙われるが今度は素早く起き上がり、その場から飛びのくことで大男の攻撃を避ける。
「俺様の攻撃をもろに食らってそれだけ動けるとは頑丈だな」
「私の体は普通より頑丈ですからっ!」
飛び退いた先で一陣の風が吹いた。
反射的に顔を背けたが、完全には避けきれず頬が浅く裂けて血が垂れてきた。
「ちっ」
少女を仕留め損なったことで背後にいた1人か舌打ちをする。
「厄介な異能力ですね」
「異能力と言うんじゃねぇ!これは俺の能力だ!」
一般的には灰によって進化した者のことを異能力者と言うが、中には異能力という言葉を嫌い能力者と自称する者たちもいる。
この男はそのうちの一人だったようだ。
少女は呼び名などどうでもいい人間なので、なぜ怒るのか理解できなかった。
「呼び方程度で怒るとは不思議な方ですね」
「好き勝手にやってるてめぇにはわかんないだろうな」
怒鳴りながら少女に向かって風の斬撃を放ち続ける。
それを少女は素早く動くことで避けながら、異能力の分かっていない二人を観察する。
「余所見なんて余裕だな!」
「安心してください、ちゃんと見ています」
背後から現れた大男の攻撃を危なげなく躱して、剣から炎を放出して応戦するが見えない壁に阻まれて大男に届かない。
「面倒ですね」
見えない壁の対策を模索するが、敵は考える時間をくれない。
四方八方から風の斬撃が放たれ、避けようにも見えない壁に行く手を阻まれる。
そして一瞬でも隙を見せたなら、大男による強力な一撃を受けてしまう。
一対一ならば少女の方が優勢だが、息の合った連携によって三対一のこの状況は少女にとってかなり厳しいものだった。
「そろそろ限界のようだな」
風の斬撃によって少女の体はには、多くの切り傷ができて血が多く流れていた。
敵の攻撃は少女に届くが少女の攻撃は見えない壁に阻まれてしまうので、一方的な状況だった。
「辛そうだね」
心配する言葉をかけながら近づいてきたのは、アルバントだった。
不用意に近づいてくる彼に炎を放つがやはり、見えない壁に阻まれてしまった。
「何度やっても無駄さ、君の攻撃は全てゴードンによって阻まれる。彼の能力はバリアだからね」
無駄な抵抗をする少女をアルバントは憐れむように見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「君では僕たちには勝てないよ。だからそろそろ降参してくれないかな?」
「降参して何の意味があるのですか?私が邪魔なら殺すはずですよね」
少女が睨みながら言うと、アルバントは大げさに手を振りながら否定してきた。
「違う違う、僕たちは君を殺そうとしているわけじゃないよ。君をスカウトしに来たんだ」
「スカウト?」
訝し気に見るとアルバントは肯定するように頷くと、詳しい説明を始めた。
「君のことは前から知っていたんだ、とても強い能力者がいるとね。だけど、中々正体はつかめなかった。なにせ標的はもちろん、その場にいた人たちも全員殺されているからね」
「てめぇのせいでこっちにも迷惑が掛かったんだからな」
「クリス、今は僕が話をしているんだ静かにしてくれないか」
「ちっ、わかったよ」
風の異能力者の男はクリスという名前らしく、アルバントに注意されて不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
「ごめん話が中断しちゃったね。それで、君自身を探すことは一度諦めたんだよ。でも別の方法で君を誘き出したんだ」
「誘き出した?」
「うん、君が所属してそうな組織に当たりをつけて不利益になりそうな図和差を流すことにしたんだ。たとえば、能力者の集団が反乱を起こそうとしてるとかね」
アルバントの口にした情報はボスの話にも出てきたもので、少女はまんまと罠にはまったようだった。
「それで、私を誘き出してすることがスカウトですか」
「最初は殺そうと思ってたんだけど、こっちの戦闘員が色々あって減っちゃったから代わりに君を仲間にすることにしたんだ。改めてもう一度聞くね、僕たちの仲間にならないかい?」
アルバントは再び少女に問いかけて手を伸ばしてきた。
少女は自分に差し出されたその手を見つめながら返答をした。
「そうですか、話は分かりました。ですが、お断りします」
少女の拒否の言葉を聞いて、周囲から殺気が放たれ穏やかだったアルバントの雰囲気も一転して、冷たいものに変わっていた。
「そうなると君のことを殺さないといけないけど、いいかな?」
「私にとって命令は絶対です。そして、その命令はあなた方を全員殺すことです」
少女の意思は変わらないことが分かったアルバントは、短く息を吐いた後低い声を発した。
「こいつを殺せ」
アルバントが言い終わった瞬間待ってましたとばかりに、大男が少女に殴りかかるのと同時に風の斬撃が襲い掛かる。
大男の攻撃を剣で受け、その衝撃を利用して後ろに大きく移動することで斬撃を避ける。
後ろに跳びながら追撃をされないように、炎で大男を牽制する。
着地と同時に地面を蹴ってこの場で最も厄介な人物、ゴードンに向かって切りかかった。
「何度やっても無駄だ。貴様の高ふぇきは俺には届かない」
「これでも?」
少女は剣と体から炎を放出して見えない壁を破壊しようと試みる。
異能力はとても強力だがその分代償がある。
強力な異能力ほど代償が重かったり、燃費が悪かったりする。
少女はこのバリアの異能力もそのどちらかであると予想して、一気に負荷をかけることで突破しようとしていた。
「俺たちを無視するんじゃねぇ!」
大声とともに突風が吹き、簡単に少女を吹き飛ばしクリスから距離を取らされる。
そして、今まで沈黙を保っていた男がついに動いた。
「クリス、紅の能力の代償は血液だ。切り刻め」
「了解」
なんと男は少女の能力の代償を言い当てたのだった。
「トレイルとゴードンはアルバントを守れ。クリスは遠距離から斬撃で攻撃して紅の血液を消費させ炎を出せなくしろ」
「わかったぜ、ヴァイス」
ヴァイスと呼ばれた男は仲間に作戦を伝えたあと、全員素早く行動に移した。
そこからはもはや戦いではなくなっていた。
遠距離から風の斬撃が襲い掛かり、逃げる先はバリアで塞がれてしまう。
最初の方は炎で応戦していた少女だったが、しだいに炎の勢いが弱まっていき血を大量に流したせいか、動きものろくなっていった。
「これで終わりだ紅!」
少女の隙を見逃さず、弱った炎を無視してトレイルが突っ込んで顔を思い切り殴り、地面に叩きつけた。
そして地面に押さえつけられ、風の斬撃で追い打ちをかけられた。
「かは……っ」
小さな体から血が噴き出し周囲を水びだしにして、少女は動かなくなった。
少女が死ぬ前に一声かけようと、アルバントが近づいてきた。
「お前が断ったのが悪いんだぜ紅。大人しく僕たちの仲間になって入ればこんな目には合わなかったんだ。お前の負けだ」
誰の目から見ても少女に勝ち目はなかった。
異能力の代償は暴かれ、攻撃は届かず炎もろくに出せない。
それなのに少女は命令を遂行しようと再び立ち上がった。
「おいおい、もうやめとけって。これ以上何ができる」
アルバントの呆れた声に少女は静かに、そして不敵に笑った。
「あなた方を殺せます」
少女がそう答えると同時に、トレイルの身体が発火して炎が全身を包んだ。
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