第4話 少女の剣

「今日の標的は、異能者を集めて反乱を起こそうとしている連中のボスだ。まだ数は少ないが、お前と同じ異能力者が護衛にいるから注意するように」


 ボスの部屋でいつものように任務を与えられるが、その内容はいつもより困難なものだった。


「私と同じ異能力者ですか?」

「そうだ。お前以外にも異能力者は存在する。お前は先天的な異能力者だが、大半のやつらは後天的な異能力者で、死の灰によって進化した連中だ。だが、生まれたときから能力の訓練していたお前の敵ではない」

「了解しました」


 少女は自分以外にも異能力者が存在していたことを初めて知ったことで、少し感情が動いたがそれはいいものではなく、ただ敵に厄介な者がいるという認識なだけだった。

 自分と同じ能力者がいたことへの喜びはなく、ただどう殺すかを考えるだけだった。

 本来なら、すぐに部屋を出て行き任務を遂行しに行くが、今回はボスに一つお願いがあった。

 それは「私の剣の烈火の使用許可をください」と少女のみ扱える剣の使用許可を求めるものだった。


「烈火が必要だとお前は考えるのか?」

「はい。私と同じ異能力者がいるのならば万全を期すべきだと考えております。現状不安要素が多く、それを少しでも取り払いたいのでお願いします」


 少女の申し出を聞いたボスは少し思案したのちに、許可を出した。


「実際に戦いに行くお前が言うのならばよかろう、持って行っても構わない。だが、その代わりに条件がある」

「条件ですか?」

「ああ、烈火を使用するというのならば、目撃者は全員殺せ。大人や子供関係なくその剣を見た者を全員殺せ。烈火は我が組織でも知る者は少ない貴重なものだ。少しでも情報が外に漏れるのは避けたい。わかったな」

「承知いたしました」


 少女もその条件は従うべきだと考えていた。

 烈火は組織が少女のために作った専用武器だ。

 少女の異能力と合わせることで大きな力を発揮する、組織の叡智の結晶だ。

 それを他の者に知られることは許されることでない。


「それともう一つ条件がある。貴様と烈火両方無事に帰還することだ」

「必ずや無事に任務をこなして、帰還して見せます」

「よろしい。では行け」

「失礼します」


 ボスはもう用はないとばかりに自身の作業へ戻った。

 最後のボスの条件は少女のみを案じたように思えるが、実際は自分の道具を失いたくないだけだった。

 少女もそのことを理解しているし、間違ってもそのようなことを考えなかった。

自らを組織の道具と受け入れて、そのように行動する。

 それしか生き方を知らないのだった。


 ボスの部屋を出た後は烈火が厳重に保管されている研究室へ向かった。

 数分後研究施設へ着いた少女は、扉をノックして声をかける。

 研究施設へは限られて者しか入ることが許されておらず、烈火を受け取る場合も中にいる研究員に持ってきてもらう必要があった。

 声をかけてからすこしすると、中からいらだった様子の声が聞こえてきた。


「何の用だくれない

「お忙しいところ申し訳ありません。ボスの許可の元、烈火を取りに来ました」

「分かった少し待て」


 言われた通りに待機していると、部屋の中から剣を持った白衣の男性が現れた。


「ほら、お前の剣だ。壊すんじゃないぞ」

「ありがとうございます。大切に扱わせてもらいます」


 男性から烈火を受け取り、腰へ装備して移動しようとすると


「待て、まだ話がある」


 男性に呼び止められた。


「何でしょうか?」


 少女は首をかしげて用件を聞く。


「お前の今回の任務に烈火が必要ということは、敵に異能力者がいるのか?」

「はい、今回の任務には数人の異能力者がいると予想されています。それが何でしょうか?」

「できればなんだが、異能力者を殺した後どこか部位を持って帰ってきてくれないか。手や指でも構わない、どこかしらの部位を頼む」


 なぜ?と疑問には思うが、話せる内容ではないと少女は察してただ一言、「了解しました」と言って研究室を立ち去った。

 いつもならすぐにでも標的を殺しに行くのだが、今回は真正面から戦うのはリスクが高く、危険なので夜になるのを待った。


 標的の潜伏している場所は三階建ての建物で周囲に見張りがいないかなどの確認をして、気配を消しながら隠れた。

 建物の入り口には見張りがおらず、誰一人外の様子をうかがいに来る者はいなかった。


「不可解ですね。もしかして私が来るのを待っているのでしょうか?」


 情報が洩れている可能性を考え、闇に紛れて突入する作戦を、外から建物ごと焼き払う作戦に変更する。

 とても作戦と呼べたものではないが、わざわざ敵が待ち伏せている建物の中に入るよりはましだろう。

幸い周囲には建物や人の気配がなく、人目にも付きにくい。

 少女の異能力をもってすれば建物を焼き尽くすことなど容易であった。


 数時間後、闇が周囲を支配して襲撃をしやすい時間となった。

  万が一、戦闘で敗北したとしても闇に紛れて逃げやすくなっている。


 烈火を鞘から解放して、両手で構えて、異能力で剣に熱を集める。

 十分熱が高まった剣を振りかざして、内に貯まった熱を開放すると同時に振り下ろす。


「烈火・不知火!」


 剣から紅蓮の炎が放たれ、超高熱と混ざり合い巨大な炎が建物を飲み込んだ。

夜になり、涼しくなっていた気温が一気に高まり、灼熱地獄へと変貌する。

 少女が剣を振り下ろした余波で付近に生えていた草木がすべて燃え尽きる。


 炎を出し続けること一分少女はようやく炎を出すことを辞めた。

 そして建物を睨むように観察する。

 普通の生物はもちろん、魔物でさえも今の一撃をまともに食らえば、原形を保つことなく消滅する威力だ。

 だが、十秒ほどすると炎の中から突風が吹き、少女が瞬きをした一瞬で先ほどまで存在していた炎がすべて消滅していた。


 作戦は失敗したと悟った少女はすぐに逃亡計ろうとしたが、時すでに遅く少女の目の前に二人、そして背後に三人の人影が現れた。


 当初の作戦は失敗し、状況は一変して異能力者と思われる集団に囲まれる絶体絶命な状態になった。

 そんな状況になり、少女は逃げることを諦めてどうすれば全員殺せるかを考えていた。

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