メリッサの献身
◇◆◇◆◇◆◇◇
ミネルバから再び宿を追い出されて30分程が経過しただろうか?
金も服も行くあても無い俺は、宿の前で三角座りをしながら夜風に晒されて、プルプルと寒さゆえに震えていた。
アイテムボックスの中身はカジノで回収されていない。服は無いけど防具はあるので、防具を装着したら幾分か寒さをしのげるかな?
……いや、駄目だ。全身を覆う鎧ならまだしも、俺は機動力重視のタイプで、胸当てや足当てや肩当て等、部分的に装着するタイプの防具を仕様している。
つまり、装着してもかなりの割合で肌が晒される事になり、パンツ一丁でそんな防具をつけてしまっては、余計に見た目の変態さが増してしまうような気がする。
そんなくだらない事を考えていると、お腹の虫が急にぐぅ~と鳴り出した。
「はぁ~……お腹空いたなぁ。そう言えば、今日は朝から何にも食べていないなぁ~……でも、金無いしなぁ……」
ツラい……本当にツラい……。
でも、自業自得だよな。聖剣デュランダルを失くして、魔王戦までそれを皆に黙っていて、帰ってきたらカジノで有り金と服をスってしまう。
俺って実は馬鹿なんじゃ?俺なんて
はぁ……嫌になる……
俺は三角座りの状態で頭を臥せ、自分の行いを悔いて嘆く。
しかし、そんなどうしようもない俺に天使が手をさしのべてくれるのであった。
「勇者様、大丈夫ですか?」
絶望にうちひしがれている俺に声をかけてくれたのは、パーティーメンバーで幼馴染みでもある、僧侶のメリッサであった。
メリッサは慈愛に満ちた笑顔で俺を見つめてくれる。
「勇者様、予備の着替えとお食事を持ってきました。お腹空きましたよね?ゆっくり召し上がってください」
メリッサはそう言って、トレーに乗っている食事と服を俺に差し出してきた。
「……メリッサ…………うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
俺はメリッサの優しさに涙を堪える事が出来ず、大泣きしながらメリッサの腰に抱きついた。
メリッサは「ハハハ、料理が溢れます。あと、抱きつくならせめて服を着てからにしてください。恥ずかしいです」と言って、顔を赤らめながら少し迷惑そうな様子だ。
しばらくして気持ちが落ち着いた俺は、メリッサから服を受け取り、着替えを済ました後に宿の前で
メリッサは、そんな食事を食べている俺の隣に三角座りで座っている。
「……ありがとね……メリッサ」
俺は泣きべそをかきながらメリッサに感謝を伝え、メリッサはニコっと笑って「いいえ、どういたしまして」と返してくれる。
あぁ、本当にメリッサは優しい……。でも、メリッサは本当の所、俺の事をどう思っているんだろうか?
こんな事ばっかりしている勇者と一緒に旅をする事に内心ウンザリしているんじゃなかろうか?
俺は恐る恐る尋ねてみる事にした。
「なぁ、メリッサ?」
「はい、なんでしょう?」
「本当にごめんなぁ、メリッサ。いつも迷惑ばっかりかけて。俺の事を幻滅しているよな?」
「そんな事ないですよ」
「本当に?」
「はい。幻滅とは、元々の評価が高かった人にする事ですから」
「メリッサさん!?」
幻滅どころか、メリッサは最初から俺に期待などしていなかった。ショックを受けてしくしく泣いている俺に、メリッサは「ハハハ」と笑って頭を撫でてきた。
「だって、勇者様がドジでお調子者なのは今に始まった事じゃないですから。今更勇者様が何をしでかしたからって、私達は勇者様の事を嫌いになりませんよ?ミネルバさんはまだ少し怒っていますけど、ヨウランさんも勇者様の事を心配されてますし、ラックさんも口には出されませんが、多分心配していると思います。だって、普段の行いはともかく、勇者様には誰にも負けない素晴らしい所があるのを皆さん知っていますから」
「俺の……素晴らしい所?……あるの?俺に?」
「はい!」
元気よく返事をした後、メリッサは首を傾げて頬を赤らめ、上目遣いでこちらを見てくる。
「
メリッサは恥ずかしくなったのか、そう言って後に体を丸めて、俺に見られないように顔を隠した。だけど、耳が赤くなっているのは見えている。
メリッサは本当に感情豊になったよなぁ。俺が8歳で教会の孤児院にやってきた時、メリッサは既に孤児院にいた。
赤ん坊の頃から孤児院にいたらしく、
俺が孤児院にやってきた時、名前が原因でメリッサは孤児院の子供達に虐められていた。
そのせいか、出会った当初のメリッサは無口で無表情、塞ぎこんだ性格をしており、笑顔を見る事なんて全くなかった。
目も死んだ魚のような目をしていて、そんなメリッサがこんなにも感情豊に自分の言いたい事を言えるようになった事は本当に嬉しく思う。
こんな優しい子が慕ってくれている事も……
あぁ、俺はどんなにアホな事をしでかしても、この子の期待だけは絶対に裏切ってはいけないんだなぁ……
いや、裏切りたくないんだ。
「ねぇ、メリッサ。お願いがあるんだけど……」
「お願い……ですか?」
俺は食事の手を止めて、とあるお願いをメリッサに伝えた。するとメリッサは「それはいいですね!」と言って、大喜びで俺のお願いを快諾してくれた。
俺はホッと胸を撫で下ろし、笑みをこぼしながら食事に再び手をつけはじめる。
季節は3月。暦の上で冬は越えたが夜はまだまだ冷える。しかし、俺の胸は何故だかポカポカと暖かくなっていた。
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