ロータス親子②
「……まぁ、そして頬を叩いた後の話なんだけど、珍しくリーファは俺に反抗して、自分の部屋に閉じこもったんだ」
「へぇ~、あのリーファがねぇ。今の素直なリーファを見ていると、そんな姿は想像もつかないけどなぁ……」
リーファはいつも元気で優しく、それでいて礼儀正しい女の子だ。
さすがに父親であるオッチャンには俺達よりは少し砕けた態度をとっているが、反抗的な態度をとっている所なんて少しも見た事がない。
短い付き合いではあるが、もし怒られるような事をしたらちゃんと謝る素直な子というイメージだ。
父親であるオッチャンも、俺と近しいイメージを持っているらしく、「あの当時のリーファだって、今と変わらず素直ないい子だよ」と言って同調してくれた。
「その後なんだがな、その日の仕事があらかた終わり、俺は部屋に籠ったリーファに叩いた事を謝りにいったんだ。叱るにしても、善意で手伝ってくれたリーファを叩くなんてとんでもない事をしてしまった。リーファが怒るのも無理は無いと、頭を冷やして我に返った後は凄く後悔したよ。でも、リーファは叩いた事にではなく、他の理由で俺に怒っていたんだよ」
「別の理由?」
「あぁ……あの時のリーファにこう言われたよ……」
-『どうして家族なのにお父さんを助けようとしたら駄目なの?どうしてお父さんさんは私にお手伝いをさせようとしてくれないの?いつも一人になったら疲れた顔をしているのに……。私達の為に無理をしているお父さんを見てるのは……悲しいよ。家族なのに……私はお父さんのお手伝いもさせてもらえないの?……』-
「あの時のリーファは……叩かれた事ではなく、何もかも一人で抱え込み、無理をしていた俺に怒っていたんだ……。俺は、子供の為にと頑張っていたつもりが、そんな姿が逆に子供を傷つけていたんだ……。それに気付いた時は、本当に俺って馬鹿だなぁと思ったよ」
うっ……、うっ…………
「ウモォー!!!!!!!!」
「!?……どうした!?」
「えぇ……えぇ話やないかぁ~い!!」
オッチャンの話は途中であるが、もう俺の涙腺は限界を迎えていた。俺は一目を憚らず大泣きをした。
だからこの手の話は苦手なんだよ……涙が止まらなくなるから。
オッチャンはそんな俺に困惑しながらも、話を締めようとした。
「えっ~と……まぁ、そこからはリーファに店を手伝ってもらうようになって、可愛い看板娘がいる店としてそこそこ繁盛し始めた。従業員も雇えるくらいにはなったし、俺もこうして余裕が出るようになった。本当に今の『ロータス』があるのはリーファのおかげだよ」
「本当にリーファはすげぇなぁ」
そんな娘を持ったオッチャンは幸せものだ。しかし、オッチャンは少し複雑な心境のようで……
「あぁ……凄いよ……。今やもう店を実質仕切っているのはリーファでさ……。さっきなんか『お父さん邪魔だからどっか遊びに行ってて!』とか言われて宿を追い出されてしまったよ……」
オッチャンは迷子になった子羊のような目をしながら、悲しげに言った……。
「オッチャン……店を乗っ取られたんだね……。」
「あぁ……。もうあの店はリーファの天下だ……。あの店でリーファに逆らえる人間は誰もいない」
そう語るオッチャンに親の威厳は皆無であった。悲しい……まぁ、リーファの方がしっかりしてるもんなぁ。
生まれながらにして能力が違うんだろう。ドンマイ!オッチャン!
しかし、どうやらオッチャンは今の現状を悲観的には思ってはいないようだ。
「まぁ、それでも重要な事は俺の判断を仰いでくれるんだけどな。勝手な行動をリーファがする事は無い」
オッチャンの顔に笑みが戻る。リーファは勝手にベッドメイキングをして、オッチャンに怒らた事を教訓にしているのだろう。賢い子だ。
「ハハハ。オッチャンは幸せものだ」
「本当にな……。リーファには感謝してもしきれないよ。そんなリーファを俺は出来る限り一人前として扱ってあげたいんだ。だから、子供だましのようなプレゼントをあげたくはなくてね……」
「それで、こんな高価なアクセサリーを……」
「まぁ、そんな所だ。しかしなぁ……俺の小遣いでは中々買うのは厳しくて……」
"ロータス家"の貯蓄は10万G程度のアクセサリーを買えない程に少ない訳ではないだろう。しかし、それはリーファと一緒に頑張って貯めたお金だ。
オッチャンはなるべく自分のお金でリーファにプレゼントをあげたいのだろう……。
その心意気やよし!!俺はオッチャンにとある提案をする事にした。
「なぁ……オッチャン」
「ん?どした?」
「実は俺、カジノに行こうとしてた途中なんだ……」
「へぇ~……そうなんだ……」
「オッチャンも一緒に行かね?」
「カジノに?」
「うん」
俺はオッチャンの耳元へ口を持っていき、小声で周りに聞かれないように話をする。
「……俺……実は聖剣デュランダルを失くしたんだよ……」
突然の告白に、オッチャンは「はぁ!?聖剣デュランダルを!?」と、大きな声で叫び、驚いた様子を見せる。
俺は口に人差し指を当てて、「しーっ、オッチャン。声が大きい」と言ってオッチャンを諌めた。
「いや、大きい声も出るだろうよ……。ってか、それとカジノへ行く事になんの関係があるんだよ……」
俺はオッチャンの顔に近づいて、再度小声で説明をする。
「カジノには色々な人が集まる。人が集まる所には情報が集まる。俺は失くした聖剣デュランダルの情報も転がっていないかなぁと思ってカジノへ行こうとしてたんだ。だから、情報だけ集めたら遊ばずに立ち去るつもりだったんだけど……俺、オッチャンの為に一肌脱ぐよ……」
「ヨハン……つまりはカジノで儲けてプレゼントをするって事か?」
「その通り。10万程度ならカジノですぐに稼ぎ出す事が出来る」
そうなれば、オッチャンも自分のお金でリーファにプレゼントを買ってあげる事が出来る。
俺はナイスな提案をしたつもりなのだけど、オッチャンはあまり乗り気ではないようだ。
「そりゃあ、それで買えるならそれに越した事はねえが、負けて有り金を失ってしまう可能性だってあるじゃねえか」
「なぁに、全部使わなきゃいいだけの話だよ。オッチャンは今いくらお金を持ってるの?」
「6万Gくらいは一応持ってはいるけど……」
ふむふむ。オッチャンの月の小遣いなんて2万Gくらいなもんだろう。毎日タバコを吸っているのに、それを考えたらよく貯めた方だな。
「6万Gあればそのうち4万Gまで使うようにしたらいい。そしたら2万Gは手元に残る。それだけあれば、この露店のアクセサリーは買えなくても、そこそこのプレゼントは買ってあげられるよ。どうせこのままじゃあ、この露店のアクセサリーは買えないんだから」
オッチャンは俺の説得に心が揺れはじめたのか、腕をくんで「う~ん」と言いながら悩みはじめた。これはあと一押しすれば落ちそうだな。
「オッチャン……」
「うん?」
俺は目を見開いてオッチャンの目をマジマジと凝視し、プレッシャーをかけながら魔法の言葉をオッチャンに送る。
「勝てばいいんだよ……勝てば……。勝てば何も問題ない……」
勝てば官軍、負ければ賊軍。ギャンブルに勝利をすれば理想の生活が手に入る。富、名声、女、全てが思いのままだ。
負けたら無一文?戦う前に負ける事を考える馬鹿が何処にいるかよ!?
勝ちゃあいいんだよ。勝ちゃあ……
俺のプレッシャー改め思いが通じたのか、オッチャンの目がキラキラ輝きはじる。
「そ、そうだよな!!勝てばいいだけの話だよな!!」
そう言葉を放つオッチャンの姿は、まるで希望に満ち溢れた冒険少年のようにワクワクとしている様子であった。
「そうだよオッチャン!幸せは自分で掴みとるもの!掴みにいこうぜ!幸せってやつをさ!!」
「おうよ!!」
露店街からカジノまでは歩いて20分の所にある。俺達は絶対勝利の決意を胸に、カジノへと向かうのであった。
決意を決めた男達の姿は雄大であり、カジノへ向かう足取りも軽やかである。もう、この二人を止める事が出来る人は誰もいない。
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