目覚める勇者。その名はヨハン・プリテンダー
◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ~、やっと帰ってきたぁ~……疲れたなぁ~」
車を降りた瞬間、俺は固まった体を背伸びして、ほぐしながら 吐き出すようにそう呟いた。
魔王戦から3日後、この勇者"ヨハン・プリテンダー"様が率いるパーティー一向は、魔王決戦前に滞在していた『ミーティアの街』へと帰ってきた。
魔王城へと向かった行きの道中よりはゆっくりと時間をかけて帰ってきており、それは魔王城戦によりパーティーメンバーが少なからず疲弊していたからである。
車という鉄の乗り物を操っていたラックは俺の呟きが聞こえていたらしく、「ヨハンさんは車で寝ていただけじゃないですか?運転しているこっちの身にもなってくださいよ」と不満を漏らす。
「すまん、すまん。今度は俺がその"運転"?ていう操り方を覚えて運転?するからさぁ」
「別にいいですよ。初心者やペーパードライバーの運転程怖いものはないですから。自分が運転している方がまだ気が楽です……」
ラックはたまによく分からない言葉を使う。初心者は分かるけど、ペーパードライバーってなんだ?異国語だろうか?
「取り敢えず、早く宿の中に入ろうよ。はやくベッドで横になりたい……」
黙って俺達のやり取りを見ていたヨウランが疲れた様子で提案してきた。
近接戦闘を主とするヨウランは、肉体的疲労という意味ではこのパーティーの中で一番疲労が蓄積されているのだろう。早く休ませてあげたい。
俺達はヨウランの提案に同意して宿へ向かう事にした。
車は以前泊まっていた宿の近くに停めてあり、ここから歩いて一分もかからない場所に宿はある。
宿の名前は『ロータス』と言う。中規模程の宿ではあるが、管理がきめ細かく行き届いており、ご飯も美味しく、看板娘も可愛いと、冒険者の間では評判の宿である。
しばらくして宿の前につき、扉を開けるとさっそく可愛い看板娘達が出迎えてくれた。
「あっ、ヨハンさん、それに皆さん!お帰りなさい!無事だったんですね!!」
「……お帰りなさい」
扉を開けると、受け付けのカウンターには可愛い女の子二人が立っていた。
二人は姉妹であり、先に元気よく挨拶をしてくれた方がお姉ちゃんで、名前は"リーファ・ロータス"。年齢は確か12歳だったはずだ。
後からボソッとつぶやくように挨拶をしてくれたのは、妹の"ライナ・ロータス"だ。年齢はリーファより4つ下だったと思う。
お姉ちゃんのリーファは綺麗な茶髪のセミショートヘヤーで、黒いカチューシャをつけているのが特長だ。いつも活発で笑顔を振り撒いているが、礼儀正しいしっかり者である。
妹のライナは姉とは対照的で物静かな女の子だ。長い黒髪が特長で、いつも片手に本を持ち歩いている。
この宿主の娘である二人は、亡くなった母親に変わっていつも宿のお手伝いをしている。受け付けに立っているのもお手伝いの一環であろう。
「ただいま。リーファ、ライナ」
「ヨハンさん!お早いお帰りですね!」
「あ、あぁそうだね」
「皆さん、無事に帰ってこれ本当に良かったです。……って事は魔王を倒したって事ですよね?」
ギクッ!
期待の眼差しをこめながら質問をしてくるリーファ。それが俺の胸にグサッと突き刺さる。
いや、本当なら魔王を倒せていたはずなんだけど……
「いやぁ……まぁ何と言いますか、……痛み分け?みたいな?あと一歩の所まで追い詰めたんだけど、魔王もなかなかにしぶとくてねぇ……一度体勢を立て直すといいますかぁ……」
言えないよぉ……聖剣デュランダルを失くしたから引き返しただなんて言えないよぉ……
白々しく適当に言い訳をする俺に、背後にいるパーティーメンバー達(主にミネルバとラック)から「じぃ~」っと疑惑の視線が突き刺さっている事を肌で感じる。
リーファは俺の白々しい言い訳を信じてくれたらしく、「"不死身"の魔王ですもんね……聖剣デュランダルを持ってしても倒しきるのは大変ですよね……」と言って、真剣な表情でアゴに手を添えながら納得している様子であった。
「そう!マジ大変!魔王マジ大変だった!」
「本当にお疲れ様です。以前宿泊してくださった2階のお部屋は、皆様の帰還をお待ちして空けさせて頂いております!ゆっくりと戦いの疲れを癒してくださいね!」
リーファはそう言ってニコっと笑い、俺達を労ってくれた。本当にいい子だなぁ。今は後ろめたさのせいか、笑顔が眩しすぎて直視する事ができない。
しかし、リーファの気遣いは本当にありがたく感じる。リーファの気遣いに、他の皆も嬉しく思っているみたいだ。
「いやぁー!!ありがとう!!二人とも!!二人に会ったら疲れも一気に吹っ飛んじゃったよ!!」
ヨウランはそう言って、受け付けのカウンター奥にいるリーファとライナを抱き寄せて、激しく包容をする。
妹のライナはただただ無表情でなされるがままになっていたが、姉のリーファは「そんなぁ~、大袈裟ですよぉ~」と言いながら、激しい包容に笑顔はみせながらも少し困った様子であった。
リーファの謙虚な発言に、僧侶のメリッサは「いえ、大袈裟ではありません。リーファさんのお気遣いは私達の心を癒すには充分すぎる程のものです。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べる。
ミネルバも「本当にありがとぉ~。ヨウランが先に抱きついていなかったら、私が二人に抱きついてモギュ、モギュしていたのにぃ~」と、たわわな胸をぷるぷるさせながら感謝?をしていた。
「あの痴女、ショタだけじゃなしにロリも行けるのか?節操ねぇな?」
あっ、しまった。つい、心の声が口から漏れてしまった……
俺の余計な一言により、一瞬にしてミネルバの顔が修羅へと変貌する。
「ふん!!」
……と言うかけ声と共に強烈な裏拳が俺の右頬に飛んでくる。
そのままぶっ飛んで倒れる俺に、ミネルバばすかさず馬乗り状態になって俺を制圧してきた。
なすすべがない俺に、ミネルバの容赦ないパンチの雨が俺の顔面に降りそそぐ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッー!!」
「ぶべぼべばべがはぶびだざばぼむべざまびでがずだどぅべざごじゅででがぎゃざまーっ!!」
「オラオラ」と言うかけ声と共にパンチを放つミネルバであるが、それと同時にたわわな胸も上下にたぷんたぶんと激しく揺れていた。
なんと絶景な!!馬乗りされている俺は、この芸術的であり、至高の光景を特等席で堪能している。
魅惑のおっぱいダンシング!まさしくこの光景は男のロマン!!
あぁ……そんなに開いた服で激しく胸を揺らしてたら溢れちゃうよ
?その柔らかそうなマシュマロがはみ出ちゃうよ?
魅惑の果実さんがこんにちはしちゃいますよ!?
頬には鉄拳制裁の雨あられ。
目の前には柔らかマシュマロダンシング……
繰り返される痛いのと眼前の幸せ……
地獄と天国…………
あぁ、母なる海よ…………
生命の神秘…………
広大なる宇宙…………
全ての始まり……ビッグバン………………
あぁ……目覚めちゃうよ……目覚めちゃう、目覚めちゃう……
このまま痛いのと嬉しいのを繰り返したら目覚めちゃうよ…………
目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう、目覚めちゃう……………………
「まだ18歳なのに目覚めちゃうよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
抑えきれず、心からの叫びが俺の口から発せられた瞬間、ミネルバが「この変態勇者がぁぁぁ!!!」と俺を罵りながら首根っこ掴み、俺を宿の外へと片手で放り投げた。
放り投げられた俺は、ぼろ雑巾のように成り果てた姿でピクピクと震えている。
「ふん……あんたはまだ自分の立場を分かっていないようねぇ?自分がゴミ虫である事を自覚するまでそうやって地を這いつくばっておきなさい?」
ミネルバは俺に罵声を吐き捨て、宿の扉をしめた。そしてカチッと扉の方から音が聞こえてきた。どうやら扉の鍵も閉められたようだ。
あのババァ……容赦ねぇ……
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