-.*3話

憂鬱な気持ちが晴れない。


学校から出て、朝歩いてきた道を逆に歩いていく。


もうすぐ冬が来るのであろう風の冷たさに

一日に何度もつくため息が、だんだん白くなってきた。



道行く親子もカップルも友達グループも

見ていられない。見たくない。



どうして、そんなに純粋に笑っていられるんだろう。


寒いね。と、寄り添う合うその姿に胸が痛む。


その隣にいる人が、永遠に傍にいるものだと

疑うこともなく思い続けて笑うその姿に。



「……いつかはいなくなっちゃうかもしれないのに」



その温もりに慣れてしまったら

それを失った時、寒さに耐えられなくなるのに。


彼ら、彼女らと、すれ違う度に

心の中に薄暗い靄がかかっていく。


払いたくても、払えない。

ねっとりと張り付いて剥がれない。


重くて、重くて、うっとおしい。



「…?」



もんもんと、拡がっていく闇に眉を寄せた瞬間

香ばしい香りが、それを止めるかのように鼻腔を掠めた。


考えるよりも先に、香りの方へと足が向く。

あまり人が立ち入らなさそうな細い路地裏を、横歩きで進んで行く。



「…わっ!」




不意に出てきた一匹の猫とぶつかりそうになった。

声を上げた私に驚くでもなく、寧ろ

『よくこんな所まで入ってきたもんだ』

と感心するが如く、「にゃおん」とひと鳴きした。


それに対して、「本当よね」と思わず返せば

同意するかのように、もう一度鳴いて、とてとてと歩き出した。


本当に、此方の言っていることがわかっているようだと

不思議に思いながら見つめていると、その猫が1つの扉に消えていった。



「…って、は!?」



あまりにも自然にぬるりと消えていったので

一瞬、受け入れたが時間差で驚き、そのドアの前まで駆け寄る。


目の前までいってみれば、大きな一枚の扉の下の方に

猫一匹が通れる程の、小さなくぐり抜けの扉があった。


なんだ、とほっとしたような、何故か残念なような変な気持ちでいると

忘れていた香りが再び香っていることに気が付く。



「ここだ…」



香りの元は、今、猫が消えていった扉の向こうから。

今度は、扉全体へと視線を向けた。


濃い茶色の木で造られた扉の上の方に

黒いプレートがかかっていた。

そこには白い文字で『OPEN』とだけ書かれている。


周りを見ても、それ以外の情報は得られそうにない。

『OPEN』ということは、お店なのだろうか。



「…違ったら、謝って出たらいいよね」



そういいながら、私はゆっくりとドアノブをまわして

建物の中へと、足を踏み入れた。

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