-.*2話

教室を出た足で、真っ直ぐ職員室へと向かった。


コンコンとノックをしてから入室する。

一歩入ったところで、失礼しますと一礼をし

クラスと名前を告げてから、用事のある先生の名前を言った。


どうぞ、と近くのデスクに座る先生に促されて

更に数歩、部屋の中へと進んだ。

そのまま部屋の中に視線を向けて先生がいるかどうかを確認する。


私が用事のあった先生─うちのクラスの担任─を見つけると

同時にあちらも私の存在に気が付き、手を挙げてきた。


それにペコリと会釈をして、真っ直ぐにそこへと向かう。




「失礼します、今日の分の日誌を提出しに来ました」


「お~、ありがとう」



どれどれと、私の手から日誌を受け取ると

軽く中を確認して、問題ないな、お疲れ様、と笑った。


それを見て、ではこれで、と一礼して去ろうとすると

森野、と名前を呼ばれて、引き留められる。



「はい」


「クラスには、馴染めたか?」



転校生に向けられる定番の、台詞。


担任としては、自分の受け持つクラスで

何か問題があると困るだろうし

仲がいいに越したことはないだろうし。

仕方のない事だとは思っているけれど。



事情を知っているが故の“同情”の目がウザい。




「…慣れたとは思います」




目の前の担任が求めているであろう言葉は言わない。


事実、そうではないし

別に私は、優等生になるつもりがないからだ。


現状、今日のあの会話を聞いて

あれに自分が混ざることなど考えられもしない。




「そう、か。

 まあ、まだ、転校してきて1週間とかだしな。

 これからこれから」



これから。


そうやってなにもかも、未来に託す。

希望を抱けば抱くほど、辛くなるのに。


どうなるかわからない未来になんて

なにも抱かない方がいいのに。




「…失礼します」




今度こそ、一礼をして職員室を出た。


分かっている。

担任が悪いわけじゃない。

クラスの子たちが悪いわけじゃない。


どちらかというと、私が普通ではないだけだ。



恋だ、愛だ、友情だ。



大切な感情だと思う。


でも、それは、

幸福な環境で育った人だけが抱ける特別な感情だ。



幸せを失った私には

もう、得られない感情。


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