-.*1話

愛だとか、恋だとか

そんなの下らない。


そんな、あってないようなもの。



「森野さんは、川上くんと下山くんだったら

 どっちの方がタイプ?」



帰りのHRが終わってすぐに

隣の席で、きゃいきゃいと騒いでいたうちの1人が

突然、話の矛先を私に向けてきた。


それをきっかけに、他の女子たちも視線を向けてくる。



「はい…?」



日誌を書いていた手を止めて視線を返すと

声をかけてきた少女は、にっこりと笑顔を浮かべた。



「だーかーらー。

 ウチのクラスの人気者の川上くんと下山くん!

 どっちの方が、森野さんのタイプなのかなーって」




気になるよね~、と甲高い声で周りに同調を求めだす。


名前すら憶えていないが、

確かこの人はこのクラスで1番可愛いと言われている女子だったはず。


その女子に群がる女子たち。

いわゆるカースト上位組だ。


転校生と仲良くしてあげる優しくて

可愛いオンナノコになりたいのだろうが

生憎と、此方がそれに乗ってあげるほど優しくはない。



「私は、選べないけれどね、敢えて言うなら─」

「どちらにも、興味ありません」



選べないのに、敢えて言うという盛大な矛盾を

楽し気に話し出す彼女の声を遮った。


彼女のご贔屓も、彼らにも、興味はない。

この子たちの、話の肴になるつもりも。




「ごめん。日誌、出しに行くから」



一番最後の、今日の振り返りの欄を埋めて

机の横に掛けてある自分のバッグに手を伸ばす。



このまま此処にいて、これ以上巻き込まれるのはごめんだ。

職員室に行って、日誌を出して、そのまますぐに校内から出よう。



そう思いながら

言葉を失っているクラスメイトの女子たちの横を

素早く通り抜けて、教室から出た。


後ろ手で、扉を閉める間際に

教室の中から、またざわめきが聞こえ始める。


そのざわめきの中に、私の名前が微かに交じっていて

思わず、ため息が出た。



本当に、くだらない。


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