第11話

「ふぅー」

 僕は久しぶりに葉巻を吸う。

 吸ってでもいなければやっていられない。

 オスマン帝国上陸作戦。

 僕の派閥が勝手に進めた作戦。

 結果だけ見れば大成功。

 オスマン帝国を日本が降伏まで追い込んだという事実に国民は湧いている。

 政治家たちも僕を表立って避難する人はいない。

 しかし、ネチネチネチネチと嫌味を言ってくる人たちはいるのだ。

 面倒なことにね。

 そんな会議、会合を延々と続けたことで心はすっかりささくれたってしまった。

 だが、これで全てやり終えたというところであろう。

 報告として、オスマン帝国からオーストリア=ハンガリー帝国への進軍は、塹壕が掘られ万全の防衛体制らしく、攻勢に失敗したと受けている。

 しかし、オスマン帝国を降伏まで追い込んだだけで十分だ。

 講和会議での影響力も大きくなるだろうし、第二次世界大戦時、ソ連を仮想敵国としたときの橋頭堡を獲得できた。

 もし僕の世界通りに歴史が進んだとしたら、ソ連が日本の仮想敵国となるだろう。

 その時に、攻めるルートがシベリア横断マラソンしかなかったら面倒で仕方ない。

 しばらく休憩していると、遠くからベートヴェンの「交響曲第九番」が聞こえてくる。

 ドイツ軍捕虜の方々かな。

 僕は顔を見せることにした。

 

 そこに行ってみるとドイツ軍捕虜の方々がたくさんの日本人に囲まれ演奏していた。

 ふむ。いい演奏だ。

 僕はしばらく聞き入った。

 演奏終了後。

 僕は拍手をしながら彼らに近づいていく。

『素晴らしい音楽だったよ』

 僕はドイツ語を使って話しかける。

『皆称賛しているよ』

『……聞きやすいドイツ語だ』

 ドイツ捕虜の一人がいきなり流暢なドイツ語を使って近づいてきた僕を胡乱げな目で見てくる。

『なぁい。僕が何者なのかはどうでもいいだろう?だが、一人の日本人として君に謝罪しておくべきかと思ってね』

『何を?』

『済まない。君たちを今、しばらく母国に返せそうにない。今や我が日ノ本と貴国ドイツの関係は冷え切っているのだ。こちら側の我儘で君たちはこのまま身柄を拘束させてもらう』

 僕は深々と彼らに頭を下げる。

 ドイツとの捕虜交換の交渉。

 あまり交渉は順調とは言い難い。

 日本の我儘をドイツに認めさせるまでは彼らを返せない。

 こちらが持っている数少ない手札なのだ。

 彼らは。

『本当にすまない』

『いいさ。こちらとしても捕虜としては考えられないくらいの高待遇を与えられているんだからな。それに、国民も温かい』

『ははは、そう言ってくれるとありがたいよ。本当に申し訳ない』

 はぁー。

 本当に嫌になる。

 こんなどうしようもない世界も、

 人の心も考えぬ冷酷な一手をとる自分も。

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