第62話 沼

動けない私は眠るか動画を見るかの二択だった。


寝返りも打てない、靴下も履けない、トイレも満足にできない、そんな状態で何かできるとは思えない。


朝起きて動けないことを察して、朝ドラを見て二度寝した。


目が覚めると13:00でいつの間にかお昼だった。


お腹はすいていた、しかし立てない。


どうしようかと考えていたら、インスタントラーメンがあることを思い出した。


非常用にとっておいた美味しいやつだが、ここは背に腹は代えられん。


ラーメンを美味しくいただいた後、私は立てるうちにトイレと歯磨きや洗顔を済ませた。


私は、Twitterで推している芸人さんを調べていた。


顔がとにかくよいのだ。


すると、別の芸人さんの画像が出てきて私は、目を瞑った。


顔が良い、顔がよすぎる、そして顔が良い。


これだから喫煙者・細身・高身長男子はやめられないってばよ…。


ヘルニアの痛みが軽減しているような気がして寝返りを打つと、痛い目に遭った。


古から伝わる話だ、とTwitterにいる先人お姉さま方が教えてくれた。


「ジャニーズや地下メンも沼であることは変わりないが、芸人沼はよりどろどろが強い…。新規よ、飛ぶぞ。」


その通りだった。


私は推しがスキャンダルを起こした時と同じスピードでTwitterを漁った。


出るわ出るわ、イケメン芸人さん。


「出れない!げいにんのぬま!」である。


イケメンは見るだけなら幸せでいられる。


近づけば、後悔する。



両親から、孫の催促と結婚の話が止まらない。


私は面倒だったため、元彼からロミオされているから相手なんていない、と伝えた。


父は自慢のマニュアル車(改造・スポーツカー)を使って男を見極めろ、と言い

母は顔に騙されるなさっさと結婚して孫見せろ、と言う。


今年の誕生日でもうこの年齢なのか…と正直喜べない自分がいる。


両親が口を酸っぱくして耳タコのように言うのも分かる。


一人娘で箱入りだから、幸せになってほしいのだろう。


でも私は、自分から望めば望むほどそのほしい愛は逃げていくと思ってしまう。


だから怖いのだ。


失うことが怖い。


あの日から1日も忘れたことなどない。


わが子のこと。


成人式イキリ一気二日酔い男になり下がった、わが子のパパの投稿。


複雑な気持ちでいっぱいになった。


あなたはお酒が楽しめるようね、私は妊娠後からお酒の体質が変わって前のように楽しんで飲めないんだわ。


酒池肉林で痛い目にあえ、カス。


そんなことを思いながら私は、今もきっと本当に欲しい愛情から逃げている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る