第2話

「御用改めである!」

 表が騒がすくなってすぐに、店の入り口から大声が聞こえてきた。

 二階の窓から窺えば、基本には忠実に編成したのか、表に三人裏に二人……と、騎乗の指揮官一人か。しかし、装備は、警杖、拳銃、西洋曲刀……普段の捕り物と同じで、小銃は持って来ていないらしい。

 舐められたものだ。

 ……ん? そういえば、指揮官が何故裏にいるんだ?

 よっぽどの小心者か、何か理由があるのか……。

 ともかくも、違和感や疑念は衝くものだ。


 行動計画はすぐに頭で固まり――。

 階段を駆け上がってくる足音に、腰を少し浮かせ爪先に重心を移す。

「御用改めである!」

 表でさっき上がったのと同じ声が、障子が開いたと思った瞬間に、響いてきた。


 その口上と同時に俺は一歩目を軽く踏み込み、膝は曲げたまま姿勢を低く、頭の位置は上下にぶれないように腰の位置を固定し――視野は広く、間合いは正確に、顔は向けずに視線で左右を確認、状況把握をしつつ、五歩の間合いで最速に達する。


 踏み込んで来たのは三人。

 狭い階段のせいか、障子の前に一人がいて、その後ろの短い廊下に二人が順序良く並んでいる。

 ――馬鹿が。

 隙だらけの正面の男の腹に膝を叩き込み、余勢を駆って腰の拳銃を抜く。

 崩れた男の後頭部に銃把の底を叩き込み――膝に掛かる男の体重が増したことから――完全に意識を奪ったのを確認すると、そいつを盾にして押し進み、二人目と三人目に投げ付けるようにして盾を放り投げた。

 さすがに二人いるおかげか、男一人がぶつかっただけでは階段から転げ落ちなくて――。

「粘んなよ」

 気絶した男の背中を蹴り飛ばし、踏ん張っていた二人をまとめて階下に落とした。


 ほんの一瞬の戦闘に、今更ながら千鶴が――。

「ッ! ――キ」

 大声を上げる前の息を大きく吸う予備動作を察し、今更の悲鳴を上げる前に口を押さえた。が、悲鳴を押さえ込まれた千鶴は、それでも……、いや、むしろ、だからこそなのか、全く落ち着かなかった。


 ここで時間を取るのは馬鹿のすることだ。敵の混乱には乗じるのが鉄則で、勝勢を得たら徹底的に潰すのは常識だから。

 混乱する千鶴を肩に担いで、そのまま正面の、反対側の裏通りに通じる窓から飛び降りる。

 千鶴の混乱に拍車が当てられたのか、飛び降りた瞬間に随分と暴れられたが、数瞬後に着地した途端、大人しくなった。

 気絶してはいないようだが……。

 たかだか二階の窓。子供の遊びの木登りでも、もうちょっとは高い場所まで行くと思うんだが、ふふん、お嬢様には激しすぎる衝撃だったか。


 そして――。

 目の前には、素人の千鶴に惹けもとらないほどに混乱している三人の憲兵がいる。


 ひとりは、階段から落ちてきた仲間に駆け寄る最中で、もうひとりは、あっけに取られた顔で俺を見ていて、最後の騎乗の一人は、指示を出そうと唇を動かしてはいるが、言葉にはなっていない。


 ふん。

 鼻で笑い飛ばして、口の端を上げれば、二回戦の始まりだ。

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