第一話 現代1 外国から来た少女

 私立花ヶ丘女子大付属中学校2年A組に、外国から転校生が来ました。

『アリス・バイン』と言う名の少女で、母親の仕事の都合で日本にやって来たのだそうです。

 銀色の髪に褐色の肌、そして金色の瞳をしており、近寄りがたい雰囲気を発しつつも、人の視線を引き付ける不思議な魅力を持っています。背もスラリと高く、とても美しい少女でした。

「アリス・バインです。よろしく」

自己紹介が終わると、担任の教師に言われた席にアリスは座ります。

 その時、右隣に座っている生徒が声をかけてきました。ショートヘアーの小柄な少女がにこにこと笑っています。

「初めまして、私、北条鮎美です。えぇと・・・アリスさんだっけ?」

「えぇ・・・」

アリスが答えると鮎美は、

「何か困った事があったらいつでも言ってね!」

そう言うと、握手をするつもりなのでしょう、右手を差し出してきました。

「これからよろしくね!」

「・・・・・・」

 友好的な鮎美に対して、しかしアリスは沈黙で答えました。鮎美は少し困ったような顔をしましたが、すぐに気を取り直すと、

「よ、よろしくね・・・」

と、再び手を差し出すのですが、今度は完全に無視されてしまいます。

「あ、あのぅ・・・」

何かを言おうとする鮎美をちらりと見たアリスは、

「授業中よ」

と無感情に言うと、視線を前へと戻してしまいました。

「そ、そうだよね。ごめん・・・」

鮎美は、淋しそうに笑うと自身も前を見ました。

 その時、誰が投げたのか、後ろから丸められた紙が飛んできました。それは鮎美の頭に当たると、跳ね返って床に落ちます。鮎美はそれを拾って広げます。その紙には文字が書かれていて、それを読んだ鮎美の表情は一気に曇りました。

 そこにはこう書いてありました。

『転校生に無視されてやんの ざまあみろ! バ~カ!』

鮎美が振り返ると、何人かの生徒がニヤニヤと笑いながらこちらを見ています。鮎美は一瞬、その連中を睨み付けましたが、すぐに悲しそうな顔をすると再び視線を前に戻しました。そして、自分を嘲笑う言葉が書かれた紙を握りつぶすと、机の中へと押し込むのでした。

 その様子を何気なく見ていたアリスは、心の中でこうつぶやきました。

(いじめか・・・。くだらないわね)

そして、鮎美をいじめているらしい生徒達を振り返ってみました。その生徒達はアリスの視線に気付くとまたニヤニヤと笑っています。

(醜悪な顔してるわね。まぁ、どうでも良いけど・・・)

 アリスは興味無さそうに前を向きました。その態度が気に障ったのか、例の生徒達は何かをヒソヒソと話をしています。その事にアリスは気付いていましたが、彼女が授業中振り返る事は二度とありませんでした。


 一時間目が終わり休み時間となりました。アリスが席を立った時です。先程の生徒達が彼女の所へとやって来ました。人数は三人、その顔にはいずれも意地の悪そうな笑みを浮かべています。

「何かご用?」

アリスが面倒くさそうにそう言うと、三人の内の一人、福田と言う生徒が、

「ちょっとあんた、転校生のくせに態度デカくない?」

と言いました。

「何のこと?私、あなたと話したのは今が初めてなんだけど?」

アリスはそう言って肩をすくめました。彼女はとても流暢な日本語を話します。それに対して福田は、

「うっせーな!そう言う態度が気に入らねぇんだよ!いい気になんなこのバカ!!」

と、声を荒げ、残る二人も外国からの転校生を怒りの目で睨みつけました。

 それに対してアリスは、

「あなた達、今すぐ鏡の前に立ちなさい。とても醜い顔をしているから」

と言って、わざとらしくため息をつきました。言葉遣いこそ丁寧ですが、その態度は明らかに福田達を馬鹿にしています。

「な、なんだってぇ!!」

「ふざけんじゃねぇよ!!」

「ブッ殺すぞ!!」

 怒った三人はアリスに向かって怒鳴りますが、当のアリスは怯えるどころか「はぁ・・・」と、またため息をつきます。

「アリスとか言ったっけ?謝るんなら今の内だよ?」

「謝る理由なんて無いでしょう?本当に何を言っているのかしら?」

「こう見えても私は空手やってるんだからね。痛い目見る前に謝りなよ」

「痛い目?出来るものならやってみなさい」

 そう言うと、アリスは三人に向かって手招きをしました。それは明らかな挑発行為です。三人は今にもアリスに飛び掛りそうでした。鮎美と他の生徒達は事の成り行きを不安そうに見ていました。

 その時です。

「よしなよ」

一人の生徒がそう言うと、アリスと福田達の間に割って入りました。

「邪魔しないでよ佐藤!」

福田達はその生徒に向かってそう言いましたが、

「いい加減にしなよ、みっともない。それに、何が『空手やってるんだからね』だよ。お前まだ白帯じゃないか」

苦笑まじりにそう言うと、佐藤と呼ばれた生徒は、本当の事をばらされてあたふたしている福田には構わず、アリスへと向き直りました。

「こいつらが迷惑かけて悪かったね。まぁ、こいつらバカだから許してやってよ」

 そう言って笑いかけてきた佐藤は長身のアリスよりも更に背が高く、一見して何かスポーツをやっているのが分かります。

「あなたは?」

「あ、私は佐藤純。こいつと同じ道場で空手やってるんだ、私は黒帯だけどね」

 そう言うと、純は屈託の無い笑みをうかべましたが、一方のアリスはと言うと、そんな純を胡散臭そうに見つめています。

「やだなぁ、そんなに警戒しないでよ。転校してきたばっかりで緊張するのは分かるけどさ」

「別に緊張してはいないわ。ただ、あなたにお願いがあるんだけど」

「お願い?」

「無礼な彼女たちの教育を、ちゃんとやっておいてくださらない?」

アリスは福田たちを顎で指し示しました。

「教育?なんで?」

不思議そうに首をかしげる純にアリスは、

「だって、彼女たちはあなたの手下みたいな者なんでしょう?手下が他人に迷惑をかけたらそれは主人の責任だから、しっかりやっておいて下さいね」

そう言うなりアリスは背を向けると歩きだしました。

「あ、どこへいくのよ?」

あわてて純が尋ねると、アリスは振り向きもせず、

「トイレよ」

と答えると教室から出て行ってしまいました。

「何だよアイツ、偉そうに!」

ふて腐れた顔をして福田が言うと、純はそんな同級生をたしなめます。

「お前らがちょっかいだしたのが悪いんだろ?本当にいい加減にしなよ。なぁ?」

最後の呼び掛けは、近くで事の成り行きを見ていた鮎美に対してでしたが、鮎美はうつむき加減に「うん・・・」と答えるだけでした。そんな鮎美の態度に、純は少し悲しそうな笑みを浮かべるのでした・・・。


第一話 完 

第二話『外国から来た少女2』に続く






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