新ダークサイド・アリス
超虎太郎@KBI48
序章 中世ヨーロッパ 1『邪竜』
人間と妖精と、そして、モンスターと呼ばれる者たちがまだ、同じ世界に住んでいた時代のことです。青く澄みきった空を切り裂くように、黒い影が西から東へと飛んで行きました。
黒い影の正体はドラゴンでした。国や村を襲い、炎で焼きつくしてきた邪悪なドラゴンでしたが、退治しにやって来た騎士たちの攻撃を受け、大怪我を負って逃げて来たのです。大きな体からは血が流れ、傷ついた翼を羽ばたかせながら苦しそうに飛んで行きます。
「くそ!たかが人間と思って油断した・・・!」
ドラゴンは悔しそうにつぶやきました。
数人の騎士など取るに足らない相手だと思っていたのに、彼らは猛毒を塗った矢を放ってきたのです。それが命中し動きが鈍った所を、更に多くの毒矢を打ち込まれてしまいました。ドラゴンは反撃する余裕も無く、ただ、逃げる事しか出来なかったのです。それは、ドラゴンにとって屈辱でした。
やがて、毒が回って来たのか意識が薄れてきました。
「おのれ!おのれ人間ごときがぁぁぁぁ!!」
ドラゴンは憎しみのこもった叫びを上げると、地面へどうっと落下しました。全身を激しく打ち付けた痛みのため、身動きも取れません。
ドラゴンは長い時間苦しそうに呻いていましたが、やがて、何者かが近づいて来るのに気付きました。足音から、それは一人の人間だと分かりました。
ドラゴンは最後の力をふりしぼり、魔力で人間の美少女へと変身しました。ドラゴンは、実は雌だったのです。豊かな金髪と透けるような白い肌。そして、金色の瞳をしています。美少女であれば誰でも油断するでしょうし、助けてくれるかもしれません。人間が美しいものには弱い事を、ドラゴンは知っていたのです。
傷付いた体の″少女″が力無く横たわっているのを発見したその人物は、「あっ!」と驚きの声を上げると慌てて駆け寄って来ました。
「大丈夫か君!?しっかりするんだ!!」
″少女″が目を開けると、そこには一人の青年がいました。褐色の肌に青い瞳、そして銀色の髪の長身の若者でした。弓矢を持っている所から、狩人のようです。
「いったい何があったんだい?」
銀髪の若者は応急手当てをしてくれながら尋ねて来ましたが、″少女″は黙っていました。全身を襲う痛みのせいで話す気力もありませんでしたし、人間ごときと会話などしたくもありませんでした。でも心の中で、
(バカな男、私の正体も知らないで・・・。傷が治ったら、まず初めにこいつを喰ってやる・・・)
そうつぶやくと『邪竜ファフネー』は若者に見られないように顔を背けながら、邪悪な笑みを浮かべるのでした・・・。
序章 完 第一話に続く。
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