第6話 荒れる感想欄
家に帰ってパソコンを開くと画伯の作品の感想欄の数を見て驚いた。二十も感想がきている。俺はそれだけで打ち震えた。タイトルもあらすじもいい。俺が考えてやったタイトルとあらすじそのままではないが、何人かの意見をもとに更にブラッシュアップしたタイトルになっていた。はっきりいって俺は嫉妬した。画伯は、何をやらせてもできる。俺には才能がないんじゃないかと目頭が熱くなったが、ここでつまずいている場合ではない。感想欄を開く。そこには、刺すような感想がずらずらと並んでいた。
『こんな主人公は現実にはいません』
そりゃそうだろうが。ファンタジーの世界で、ましてや小説の世界なんだから。
『ここで、いきなりキスしたヒロインがマジで意味分からないんですけど』
キスぐらいどこでやってもいいだろうが。
『ヒロインより脇役のクイニーちゃんを主人公とくっつけて下さい』
お、お前、作者じゃないなら黙ってろ。
そのとき、スマホが振動した。マナーモードだった。え、ラインの音声通話だ。ま、まさか、画伯から電話をくれるなんて思わなかった。こ、心の準備がまだなのに!
「……リク?」
声が震えている女性の声。ほ、ほんとに女だった。
「が、画伯……なのか?」
「うん」
「あのう、はじめましてー」俺の声が裏返る。女みたいな声になる。
「うわー、リクの声おっさん」
「おっさん言うなよ。学生だ! 傷つくわ。ハートブレイクじゃ」
画伯は、突然黙り込んだ。どうしたのか?
「あの感想、どうしてあんなのばかり来るんだろう」
ああ、そうだ。その件だった。そうだよな。俺のことなんかいちいち気にしないか。でも、この距離感がいい。純粋に友達として相談したり、相談されたりする。親兄弟ではできないことだ。まあ、親には小説を書いていることは、秘密なんだけど。
「そうだな。きっと、画伯に嫉妬しているんじゃないのか」
そう思えばいい。そうじゃないとやっていられないだろう。俺だって、筆を折るかもしれない。こんな感想ばかり来たら。本当かどうかは分からない。だけど、恐ろしいことに、悪名は無名より勝る。感想欄で叩かれるのは、その作品が読まれている証拠だろう。読者を揺さぶり、それが反感となって感想欄にぶつけられた。感想欄がすっからかんだと、なにが駄目でなにが良いのかすら分からない。なにも、心に残らないからそもそも感想がつかないのかと思ったこともある。ただ、そこに想定する読者層がいないとも考えられるが。
「落ち着こうぜ。こんな主人公はいません。って感想なんかは、作品とか作者にいちゃもんをつけたいだけだと思うし」
「うん」
「キスシーンだって、作品の前後関係で変わってくるだり。そこまで読み込んでくれてないか、あるいは、こういうパターンのキスシーンもあるけど、単純にその人の好みに合わなかっただけかも」
「うん」
段々と声が小さくなる画伯。ちなみに、画伯の作品で、俺も言いたいことがある。
「俺からも一言。脇役クイニーちゃんが好きだ」
「そこ!?」
あ、ブチぎれられた。
「いや、だってツインテールかわいいし。ツンデレかわいいし。当て馬にされるシーンとかでも光ってる」
「へー、自覚がなかったよ」
画伯の作品は、どれもこれも面白い。特に、この感想欄が暴言で埋まっているラブコメは、主人公のライバルキャラが多いことからきているようだった。キャラが多いと作り手はキャラ付けだけで大変だ。だから、キャラはできるだけ少ない方がいい。もちろん、上達して、一人一人のキャラの区別がつくようになれば話は別だが。新人賞を狙っている間や、ウェブ小説ではワンシーンに登場するキャラは二人とかでもいいのだ。極端な話だけどな。三人で会話すると、突然、誰が誰なのか分からなくなるのは、ありがちなミスだ。だから、俺は学園ものを書ける奴はすごいと思うぞ。クラスに主人公がいて、友達や、ヒロインが三人以上、着席していたりすると、それだけで誰が誰か分からなくなるからな。文章でやるのは非常に難しい。
「じゃあ、脇役も活躍させる?」
「どうだろうなー」
匙加減が難しいところ。脇役って、脇役だから脇役なんだよな。当然だけど、でもけっこう作者はあれもこれも書こうとする。俺もそうするもん。一人一人が大切だから。だけど、読者が読みたいのは主人公の活躍だから。脇役は名前のないモブキャラなら出番は少なく。名づけたのなら、印象に残しつつ主人公の引き立て役で。って、俺が言える立場じゃないんだけどな。
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