第7話 ラーメン
あれから数か月。画伯とはときどき通話して相談するようになった。そういえば、アマゾンの欲しいものリストっていうものをSNSで設定すると、相手に送ることができると知った。画伯はシュークリームを希望している。どこかいい店がないかな?
画伯も、俺もPVは一日の合計100前後になった。一時間に10人来ればいい方なんだけど、それにはジャンルが原因でもあるようだ。画伯は、ラブコメが弱いと嘆いている。どうやら「悪役令嬢」なるものが流行っているらしい。俺も書いたことがないのでよく知らないが、女性受けする転生もののようだ。ラブコメと悪役令嬢の大きな違いがある。ラブコメは男向けで悪役令嬢は女向けなのだ。どっちも恋愛を面白おかしく書けばいいと思っていた俺が面食らった事実の一つだ。
今日は、画伯とオンラインデート。オンラインデートといっても、お互いに違う場所に同時刻に出かけて、そこで相手が喜びそうな食べ物を写真に収めて送りつけるっていう。ちょっとした嫌がらせだ。もちろん、そのまま食べるのもあり。ぼっち遊びとか言われたら、ちょっと困るけどな。だけど、スマホの向こう側に相手がいると一人旅も心強い。俺は隣の県まで足を伸ばし、海鮮丼を食う。って、画伯が海鮮丼好きかどうか、全く知らない。とりあえず空腹を満たしていると、画伯の奴、ラーメンの写真を送りつけて来た。いきなり、当ててくるなよ。すぐに、通話する。
「空気読めよ」
「当たったー」
「クイズ番組ですぐに正解を答える奴は嫌われるんだぞ」
「うん。でも、ここのラーメン、すごぐ普通なのに二時間前から並んだんだ」
え、めっちゃ頑張ってるじゃん。俺のために?
「考えてたんだ。ウェブの小説がラーメンに例えられる話知ってる?」
「ラーメン?」
「そう、ウェブでの小説はみんなラーメンを求めて読みに来るんだって。あるいは、スナック菓子や、ジャンクフード」
「そうなのか」
「うん。僕が書きたいのはファミレスなんだけどなー」
意味が分からない。
何故か落ち込んでため息をつく画伯。ラーメンをすするBGMつき。
「この店、なんで流行ってるのか分からないんだよね。若い女の子もいるんだけど。麺の太さは太麺、細麺、選べるけど。スープの味は薄くて飲みやすい。トッピングは自由。なんだか、ウェブっぽくない?」
俺に聞かれてもそんなことは分からない。
「たぶんだけど、一般文芸が、老舗料理店、ライトノベルがファミリーレストラン、ジャンクフード店や、B級グルメ、ラーメン屋がウェブ小説なんだよ」
「そうなのか」
「だからね、僕が思うに、ラーメンを食べたいと思って来る客が多いところで、僕らみちあに公募の文章そのままで改行しないでみっちり文章詰めて、投稿するのは読みづらい」
ああ、改行したら目が滑らなくなるとか、聞くよな。ウェブの小説は縦書きじゃなくて横書きで、紙じゃなくて電子だし。
「それと、内容も今すぐ楽しめるものにしないといけないんだよきっと」
「それって、俺らいつも楽しくて面白いものを作ろうとしてることと、どう違うんだ」
画伯が、悩んでいるのか箸を置いて水をゴクゴク飲んでいる音が聞こえる。ちょ、ラーメン食べたい。と、思いつつ海鮮丼のマグロを口にかき込む。
「うーん。詳しくは分からないけど、どんでん返しとかって最後の方のページになっちゃうよね? そういうのよりも、冒頭でどかーんと衝撃の展開がある方が受けるみたいなんだよ」
「ああ、追放系か」
「追放系に限った話じゃないよ。一話の適切な文字数はウェブだと1000から3000文字らしいよね?」
「らしいなー」
最近知った。公募だと、必ず章ごとに物語を区切るから、その文字数だとどうしても物語がぶつ切りになる。
「意識して3000文字以内に起承転結つけられるかって話だよ」
なるほど?
「って、なにか? 完成した作品を文字数で切って、一話、二話って投稿するんじゃなくて、一話の中でなにかしらの出来事、二話の中でまた出来事を描くのか?」
「その方が、ウケるらしいんだよ」
そんなの短編連作じゃんか。いや、待てよ、コントだ。ショートショートだ。それを、やるってことは一話で物語を動かす力が必要だ。うわー。エグイな。
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